□クリスマス・イブ
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歌舞伎町の雑居ビルの地下に、十四郎が通うスナックがある。
名前を「レインボー」と言う。
繁華街から外れているためか、その店に客が居る事は稀である。
真選組副長の十四郎としては、人目を気にせずに飲む事が出来るのでお気に入りの場所である。
が、この場所を気に入っているには、もう一つ理由がある。
酔い潰れている十四郎の横に寄り添う様に座っている一人の女が居る。
この女の名前は華月。
十四郎が一年程前に、歌舞伎町を見回っている時に町のゴロツキに絡まれている彼女を救った。
田舎から出て来たばかりで、行く宛てのない彼女に、時々来ているこの店を紹介し雇って貰う事にした。
それから、十四郎が飲みに来ると彼女が給仕をするようになった。
服装も化粧も、質素で地味である。
アクセサリーといえば、身一つで田舎から出て来た彼女に十四郎が贈ったシルバーのイヤリングとペンダントだけだった。
彼女は、十四郎に想いを寄せている。
そして、十四郎が近藤に想いを寄せている事も知っている。
だから、十四郎が飲んで荒れても何も言わないし聞こうともしない、黙って寄り添って甲斐甲斐しく世話をするだけである。
「華月、惚れた相手が近くに居るのに長い間触れなくても平気なのって・・・どう思う?」
今夜の十四郎の酒は暗い。
そして酒の飲み方はピッチが早く、直ぐに酔ってしまった。
口に運んでいたグラスをふと止めて、
「華月、近藤さんにとって俺って何なんだろうなぁ」
寂しく呟く十四郎に
「だから、私にすれば良いのよ。そうすれば丸く収まるってもんじゃないの」
コロコロと笑って十四郎を覗き込む華月に
「本当だなぁ・・・華月はホント良い女だもんなぁ。近藤さんより前に出会ってたら、きっと俺華月を好きになってたかもな」
ふっと、自嘲気味に笑う十四郎の手に自分の手を重ねて
「でも、駄目なんでしょう?そうよねぇ〜十四郎さんの想いはずーっと近藤さん一人なんですものね」
「・・・」
「大丈夫よ、近藤さんは誰にも好かれる方だから、自然と人が寄ってくるけど、好きなのは十四郎さん一人よ・・・ねっ」
「でもなぁ〜、あの人は俺と関係を持ってからもあの女の事追いかけ回してるからな。時々、訳判んなくなっちまうよ。俺は、あの人が居なきゃ駄目だけど、あの人は俺なんか居なくても大丈夫なんだって思う時がある」
十四郎の瞳から一筋の涙が流れた。
そんな十四郎を見るのが辛い華月だった。
「悪いな、折角華月が俺を好きだって言ってくれてんのに、俺、近藤さんと同じ事華月にしてるんだもんな・・・すまん」
項垂れたまま、詫びを言う十四郎に
「良いの私は、十四郎さんの気持判るから。組のなかじゃ弱音も吐けないんでしょ。私が聞いてるから心の澱は此処で吐き出して、明日からは又、強い十四郎さんに戻って」
華月は十四郎の手に重ねた自分の手に力を籠める。
十四郎のひた向きさを華月は愛していた。。
きっと、十四郎は近藤と恋人の関係になっても、近藤を立てて甘えて我が儘を言うなどしないだろう。
いつでも控えめに近藤を支え続けて来た事は、十四郎を見ていれば想像がついた。
そんな十四郎が愛おしかった。
十四郎の気持を自分に向かせたいという願望が無いといったら嘘になる。
が、十四郎が近藤を心から愛している事を知っているが故に只傍で見守って行く事にで我慢した。

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