□クリスマス・イブ
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「トシ、醤油取って」
「ハイ、局長」
「おっ、ありがとな柊木君」
「・・・」

「トシ、俺のハンコ何処?」
「局長、此処に在りますよ」
「あっあ、ありがとな柊木君」
「・・・」

「トシ、昼飯食いに行かねぇ」
「局長、宜しかったらお供させて頂きます。」
「ううん、そっかぁ、柊木君それじゃ行こうかぁ」
「・・・」

「トシ、最近付き合い悪いんじゃねぇーの」
近藤から何気なく言われた。
付き合いが悪いなどと近藤から言われる筋合いは無い。
十四郎が一緒に出かけようとか誘っても、既に柊木と約束していたり、近藤の部屋を訪れると其処には柊木と近藤が楽しそうに酒を飲んだりしているのだ。
先日は、松平の所へ近藤と仕事の報告をしに行く予定だったが、見回りから急いで帰ると近藤は柊木を連れて出かけてしまった後だったりと、近藤と柊木が一緒に行動する時間が多くなっていた。
当然、十四郎の入る隙間が無くなっていた。
「ふん、二人の邪魔しちゃ悪いだろーって思ってナ。それにアンタだって俺と居るよりアイツと居た方が楽しそうだからな」
近藤の顔を見ずに、タバコの煙を吐き出しながら面倒そうに言うと、十四郎の言葉の棘に気づいたのか
「・・・トシ、お前柊木君に焼きもちかぁ〜」
と言いながら十四郎を背後から抱き締めてくる近藤の無神経さにふつふつと怒りが湧いて来た。
柊木が入隊してから十四郎は近藤に触れられていない、近藤と二人きりで会う時間が無い。
十四郎は近藤に対する不信感を持ち初めていた。
自分が想ってるいる程、近藤は自分を想ってはいない、何と自分は愚かなのだろうか、近藤が自分をそれ程想っていないのは最初から判っている事ではないのか。
自分と関係を結んでも、お妙を追いかける事を止めないのがその証拠ではないか。
その事に自分は目を逸らしていた。
近藤と関係を持つようになってから、自分はそれだけで有頂天になっていた。
が、その間も近藤はお妙を想っている。
自分を抱いている時も近藤の頭の隅には、いつもお妙が存在しているのだ。
其処に思い当ったとたんに、十四郎は何もかもが馬鹿馬鹿しくなって、全てを放り出したい気分になった。
腰に回された近藤の腕を振りほどき、
「離せよ!こんな事は柊木としてればいいじゃねぇーか、今更俺に構うな!」
近藤は十四郎が何故荒れているのか理解出来なかった。
柊木はあくまでも松平からの大事な預かり者だ。
将来幕府の幹部として働けるように、此処にいる間にいろいろと経験して立派な幹部になって欲しいと思っている、その為に柊木を手元に置いて面倒を見ているのだ。
それを十四郎からとやかく言われる謂れは無い、ましてや柊木との関係を勘ぐられては堪ったもんではない。
「トシ、女の焼きもちもみっともねぇーが、男の焼きもちはもっとみっともねぇーぜ」
「ああ、どーせ俺はみっともねぇー男だ。アンタのお気に入りの柊木とは違うぜ!」
「トシ!いい加減にしろ!」
十四郎の態度に近藤は思わず声を荒げた
「っ、判ったよ、精々アイツと宜しくやりな!!!!」
と捨て台詞を吐いて十四郎は、其のまま屯所を出た。

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