□クリスマス・イブ
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「トシ、とっつぁんの話しが終ったら帰り飲みに行かねぇか」
「おおよ、久し振りだなアンタと二人で飲むの」
警視庁に年末年始の大江戸町の警備について松平との打ち合わせが終ったあと、居酒屋に行った。
「って、何でこいつが一緒なんだ」
久し振りに近藤と二人だけで飲み屋に行くのを楽しみにしていた十四郎は、近藤と自分の間に陣取った男を横目に呟いた。
その男は、柊木悠介とい云い、幕府の幹部候補生である。
幕臣の息子で北辰一刀流の免許皆伝、某一流大学を首席で卒業している。
が、実戦経験を得る為に暫くの間真選組に入隊する事になった。
明日から屯所に入れば良いという近藤の言葉に、早く真選組に馴れたいという事で打ち合わせが終った後そのまま付いて来たのだ。
近藤と十四郎は局長と副長という関係以外に親友でもあり、また恋人同士でもあった。
最近は仕事が忙しくすれ違いの毎日で、ゆっくりと二人で過ごす時間が無かった。
警視庁に行く前に近藤から誘われ、十四郎は楽しみにしていたのだ。
が、二人きりのつもりだったのが、邪魔者が入った。
普段から表情が表に出ない十四郎だが、今は誰が見ても不機嫌極まり無いという風にちびちびと杯を口に運んでいる。
一方、近藤はというと、柊木相手ににこやか酒を飲んでいる。
「トシ、柊木君は文武両道だからな、短い間ではあるが真選組にはきっと良い影響があるだろうよ」
「局長、そんな事はありませんよ。私などはまだまだ駆出しですから」
「・・・」
「柊木君、このトシは副長として俺の大事な片腕だ。俺が局長だと言って居られるのは、トシが影から支えてくれてるお陰なんだ。」
「はい、土方さんの噂は伺っております。こう言っては何ですが、真選組が成り立っているのは、副長が優秀だからだと聞いてます」
「・・・」
そうか、そうかと満足そうに柊木の話しを聞いていた。
近藤は自分の事より、十四郎が褒められるのが一番嬉しい。
そんな二人の遣り取りを聞きながら眉間の皺を深く刻み込んで十四郎は黙々と杯を舐めている。。
「トシ、なにそんなに不機嫌なんだ。せっかく柊木君も一緒なのだから、楽しく飲もうぜ」
アハハハと、高笑いをして十四郎の杯に酒を注ぎ込んだ。
近藤が席を立った時柊木が十四郎に耳打ちした。
「私、近藤さんに惚れちゃいました。決まった人いるんですかねぇ」
「さぁな」
十四郎は適当に答えた。

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