□Cross-Purpses (完結)
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今日の仕事は、真夜中まで掛かってたいした収入に成らなかった。
「あぁぁぁぁ!この銀さんを夜中までこき使って・・・こんだけかよぉ」
ぶつぶつ呟き、この分じゃぁ家賃払ったら飲み代も残らねぇ等と一人愚痴りながら歩いて行くと。
公園の街灯の下のベンチで、ぼんやりとタバコを噴かす男がいた。
「あれは・・・」
遠目でもその人物を確実に特定する事が出来る。
新選組副長 土方十四郎だ
なんたって、俺の最愛の男だから、最愛ったって付き合ってる訳じゃない。
俺としてはそういう関係に持ち込んで行きたいという願望がいっぱいながら、当の相手と言えば長年の片想いに悩んでいる。
「十四郎君、こんな夜中に一人で何物思いに耽ってるの?」
俺が近づいても全然気づく事がなく、突然声を掛けられてビクッと体が強張ったのが判る。
この男にしては珍しい、この男の仕事がいや性格上他人の行動に敏感だ。
この俺だって、こうやって気軽に声を掛けられるようになったのも、極最近の事だ。
「あっ、銀」
「あっ、もしかして俺の事・・・待ってたの?」
「はっ・・・ああ・・・わりぃ。全然気が付かなかった」
とその目を手元に移すと、その長い睫が街灯の明かりを受けて目元に影を作った。
その、物憂げな表情を見るともう、俺の心臓はドキドキと高鳴る。
真夜中の公園という事で当然周囲に人影はない。
このまま、こいつを押し倒してしまおうかという欲望が沸々と沸いてくる。
いやいや、そんなことをしたら即刻絶交なーんて事に成りかねない。
こうして、肩が触れる程密着出来るまでの俺の涙ぐましい努力が水の泡となっちまう。
辛抱、辛抱と逸る心を落ち着かせて
「珍しいじゃん、こんな時間に・・・」
「・・・」
俯いたまま、黙りこくる十四郎に
「何?また、悩み事?俺、聞いちゃうよ、十四郎の悩み・・・友達じゃん」
最後に業とらしく"友達"っていう言葉に力を込めると
「銀・・・俺どうしよう・・・思わず言っちゃったんだ」
「何を」
「それが・・・その・・・俺には片想いの愛する人が・・・居るってさ」
「へっ、誰に・・・・ってぇぇぇぇぇ!! もっもしかしてぇ〜ゴリラの隊長さんに」
「ゴリラって言うなァ」
いつもの強気の十四郎の声ではなく、消え入りそうで切なそうに言う、その姿に思わず抱きつきたい衝動を抑え
「そう、言っちまったのかぁ・・・で?」
「それでなぁ・・・近藤さん、その俺の相手を探してるみてぇなんだよ・・・どうしよう・・・本当の事がばれたらよぉ」
十四郎の声は段々と涙声になって来た
「よし、判った!友達としてこの銀さんが一肌脱ごうじゃない」
「えっ!」
俺の言葉の意味が判らず、顔を上げた十四郎に
「俺、俺が相手っちゅう事でどうよ」
「へっ」
「へっじゃなくてよぉ、先ずは既成事実を作ってさ・・・って、俺、十四郎に変な下心なんてねぇからな、安心しろよ」
「きっ、既成事実ってなんだよぉ」
それまで、肩が触れる程の距離だったのが危険を感じたのたか十四郎は、体を後ろに引いた
「そんな事決まってるじゃん、恋人同士のする事はだぁーれも同じじゃん」
怪訝そうな顔をする十四郎の両頬を俺は自分の両手で挟んで口付けしよと、十四郎の紅く熟れた唇に近づけると
「ふざけんなっ!」
と、怒鳴り声と同時に俺の頬にパンチが飛んで来た
その気になっていた俺は十四郎の思わぬ・・・ってか、予想道理の展開なのだが、避けるタイミングを外し十四郎のパンチをまともに食らい、ベンチから落っこちた。
「てっ、テメェ・・・何する気だぁ」
地面に尻餅をついた形で十四郎を見上げれば、真っ赤になってワナワナと震えてる
ああっ、どんな状態でも可愛いく見えちゃう俺って、やっぱ惚れた弱みってやつ・・・まだまだ、友達関係キープか、なーんて思いながら
「冗談、冗談だろーがよ。まった、余裕ってもんがねぇえんだらか。そんなんじゃ女にだって嫌われるぜ」
殴られた頬をさすりながら俺はもう一度ベンチに座り直して
「とにかくよぉ、十四郎の気持ち次第じゃねぇの」
「俺の気持ち?」
「ああ、このまま隠し通して辛い毎日を送るか、本人に告白してゴリラの出方を見るとかよぉ」
「だから、ゴリラって言うな! 俺は・・・ずーっと出会った時からあの人だけを見て来たんだ。どうしてか判んねぇけど・・・何で男が男をって考えたさ。でも、結局は男だからじゃなくて近藤さんだからなんだ」
「なんだよそれ」
「そう、俺は近藤さんだから惚れた。たまたま、近藤さんが男だっただけの事なんだ。だから、男だったら誰でも良いっていう訳じゃねぇ」
「ふーん、たまたまねぇ」
「だから、俺は傍に居る事が出来るだけで良い。近藤さんがどんな奴に惚れようとあの人が幸せなら・・・近藤さんの幸せそうな顔を見てるだけで俺も幸せな気分になるんだ」
俯いていた十四郎が顔を上げた俺を見た。その顔には、穏やかな笑顔があった。
あのゴリラの話をするだけでこんなに優しく穏やかな顔をするのかと、本当にコイツはゴリラに惚れてると改めて思い知らされた。
「あのさぁ、俺、お前の本音が聞きたいなぁ」
「本音?今のが本音だ」
「そおぉ、俺ってさ馬鹿だからさ、本当に惚れた相手ならさぁ、そりゃぁ一緒に居たいのは当然だよ。でも、それだけで我慢出来ねぇなぁ。さっき見たいに触れたいし、口付けもしてみたいしぃ・・・それ以上の事もさぁしたくなる、それが自然じゃぁねぇのぉ」
「・・・」
「十四郎の気持ち判らないでもないさ。お前さ、怖いんじゃねぇの」
「こっ、怖いって何だよ」
「あのゴリラ隊長にさ、告白して拒絶された時の事・・・そうじゃねぇの」
「なっ・・・」
言葉に詰まる十四郎を見て
「ああ、やっぱり図星でしょ?」
やったとばかりに十四郎の顔を覗き込めば
「そっ、そんなんじゃねぇ!」
と怒鳴るがその瞳は揺れていた。
十四郎と肩をそっと抱き寄せれば、素直にその体を俺に預けて来た。
瞳孔開きぱなしで、危険な雰囲気を漂わせてる普段の十四郎からは想像も出来ないくらその震える肩はか細く感じた。
「銀・・・きっと、そうかもしれねぇ。近藤さんから拒絶されちまったら・・・俺・・・俺は」
俺の肩に顔をうずめて咽び泣いている十四郎を本当に愛しいと今まで以上に感じてしまった。
そして、真選組の中で誰一人としてこの男の本当の姿を知る者は居ないだろう、あの近藤にしてもそうだ。
外見は誰が見ても、荒くれ野郎達を束ねてる"鬼の副長"・・・・内面はと言うと、それとは正反対の心の優しい寂しがりやの普通に青年なのだ。
こうして、弱音を吐く事も人前で泣く事も許されない辛さを、こうして俺だけには無防備に曝け出してくれる、こいつが惚れこんでいる近藤さえ知らない俺だけが知っている姿・・・俺は優越感に浸りながら
「よし、もう遅いから。送ってくか」
ただ一人の親友の仮面を被り、声を掛けると、頭を振って
「わっ、悪かったな・・・大丈夫だ。一人で帰れる。それより銀お前こそ大丈夫か」
真っ赤に泣きはらした目を拭いながら十四郎は言った。
「俺?俺は大丈夫だ。それより、お前の方が心配だ。大丈夫だ送り狼にゃならねぇからよ安心しな」
と笑ってみせれば
「馬鹿野郎」
と十四郎も笑った。
それから、俺は十四郎をマンションの前まで送った。
十四郎と別れた後、
「やっばり、諦められねぇ」
と十四郎が消えた入口に向かって呟いていた。

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