□Cross-Purpses (完結)
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やっと、面倒な見廻りが終った。
屯所に帰って一番にする事は、あの目の上のたんこぶである副長に報告に行くことだ。
局長の近藤は、真選組が出来るずっと前試衛館時代から俺が一番慕っている人だ。
いつも懐が広くて、早くに親を亡くし姉と二人暮らしだった俺にとって、兄でもあり父親でもあった。この人の傍らはいつも俺の定位置だった。それがいつの間にか現れたあの男が、その定位置を奪った。
綺麗な顔をして、いつも斜に構え素直じゃないこの男“土方十四郎”。
この男が、近藤の傍らにいつも当然の様な顔をして存在するようになった。
俺は、この男が大嫌いだ。
俺の一番の場所を奪った上に、真選組を立ち上げる時も近藤はこの男に副長という重要な役目を与えた。
そして、近藤自身は気づいていないが、近藤は心の奥底でこの男に惹かれている。

いつも通り、土方に報告を終え。
愛用のアイマスクをして、昼ねでもしようかと思い。廊下でウトウトしたその時。
「おっ、総悟。帰ってたのか。お勤めご苦労さん」
ニッと笑って、俺の横に座った。
暫くは庭を眺めていた近藤さんが突然
「なぁ、総悟。お前サ・・・トシの事どう思う?」
「・・・」
「寝ちゃったのかぁ?」
「・・・」
沈黙の後、ハッーと大きな溜息が聞こえた。
「何ですかぃ? 大げさな溜息なんかついちゃってサ」
と、寝てる振りをしていたが、片手でアイマスクを持ち上げ片目だけ溜息を付いた張本人を見た。
その横顔は、心に何か心配事でも抱えているのか、いつもの晴れ晴れしいそれでは無かった。
「土方の事なんざぁ、聞くまでもないでさァ。俺はアイツは大嫌いでさァ」
アイマスクを元に戻し、また寝た振りを決め込もうとした時、近藤さんが俺の手を掴みそれを止めた
実はなぁと、先日土方から聞いた事などを話した。
「なんでぇ、そんな事。わざわざ俺に聞く事もありませんぜ。あん人を見てりゃぁ解かりまさぁ」
「エッ! 何それ!! そんなら俺に教えてくれ! 総悟頼む」
必死に俺に両手を摺り合わせている近藤さんを見て
「そんな事知ってどうするんですかぃ? アイツを追い出して俺を副長にしてくれるって言うんだったら話は別ですがねぃ」
「総悟・・・」
少し思案するように、組んでいる両腕を解いて片手を顎の髭を弄ぶように動かしなが
「総悟がトシの事どう思ってるか知ってるつもりだ。いつもはトシのこと目の上のタンコブみたいに、目の敵にして色々チョッカイ出してるのもサ でもよぉ本当の所はサ お前だってトシの事好きなんだろうって俺は思ってるヨ いつもの過激な行動はお前なりのトシに対する愛情表現なんだってサ」
「ハッ? 何言ってんですかぃ 俺は心底アイツの事嫌いなんでさぁ」
 ・・・アンタは知らないんでさぁ アイツは突然現れて俺の大事な者を次々と奪ってる事を・・・
心の中で呟き、近藤さんの顔を睨み返した。
そんな、俺の気持にも気づかずにアハハそうかそうかとその大きな手を俺の頭に置いてゴシゴシと動かしいつもの顔に戻って豪快に笑った。
「俺はなぁ トシだけじゃなくてよ お前にも幸せになって貰いてぇんだ」
「・・・」
「まっ、取りあえず気になるのは、トシの事なんだよ。アイツはいつも俺達に弱音を吐かねえだろう。
仕事の上とは言え辛い事ばっかしアイツに押し付けてるしな。アイツが惚れた女(ひと)が居るんだったらよぉ何とかしてやりてぇと思ってよ」
「近藤さんがアイツにする事に、俺は何にも言いませんがねぇ。余計なお世話って事もありますからねぃ。
本人が今のまんまが良いって言うんだったら、それで良いんじゃねぇですかぃ」
「だからよぉ、総悟。知ってんだ教えてくれよぉ」
「俺は知りませんよ。例え知ってたとしてもアイツの為なんかにゃ教えられませんぜ」
「総悟・・・」
「そんなにアイツの事喜ばせたいんだったら。非番の日でも一日アイツに付き合ってやったらどうでさぁ 結構喜ぶと思いまさぁ」
俺は、其れっきり近藤さんの問いには答えなかった。
誰がアイツの為になる事なんざぁ、いくら近藤さんの頼みだって、否、近藤さんの頼みだからこそ教える気はないですぜぃ。
精々、無い頭を絞ってくだせぇ
「一日一緒に・・・なぁ。そんな事でトシ喜ぶんか?」
呟きながら頭を振っている近藤さんの気配い感じながら、俺は忌々しいと思い居つつ。あいつの惚れた奴かぁ・・・あの鈍さは天然物だからなぁ〜。
土方お前の思いは一生遂げられねぇぜ、と一人ごちると其のまま深い眠りの中に入っていった。

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