□Cross-Purpses (完結)
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十四郎はそれまで、机の上に向けられてた顔を上げ大きく溜息をつく
それまでの緊張が一気に抜けるた

いったい何のつもりなんだ急にとさっき近藤の言葉が思い出された
『お前さぁ好きな女とか居ねぇの?』
その言葉を聞いたとき、心の臓を鷲掴みにされたような痛みを感じた
居ない訳がない。その気持に気づいた時から、悟られてはいけないと言う気持でずーっと耐えてきている
『俺の愛してるのは近藤さんアンタだ』
と一言言えたらこの気持は楽になるんだろうな
言ってしまったら、きっと今の関係は崩れるだろう
傍に居るだけで満足するように気持をコントロールして来た
持て余す自分の感情を抑えるために、数多くの女と付き合った
しかし、その度にその想いはもっともっと深くなり、一層求めてしまうのだ
だから、女と一緒にいても気持はどこか遠くにある。
女と言う生き物は、恋愛については男よりも敏感だ
暫く付き合うと俺の気持が別の所にあるのを察知する
あっさりと別れていく女、泣き喚きながら俺を罵る女・・・そしていつしか俺は女たらし"と呼ばれるようになった
なんて卑怯な俺なんだ、声を掛ければ大抵の女は付いて来た。
そんな事の繰り返し、他人を傷つけその報いとしてそれ以上に傷ついていく自分
そして、思わず言ってしまった
「好きな女はいねぇ、でも愛してるヤツはいる」
なんでそんな事言ってしまったのか、言ってしまってから後悔した
おまけに片想いだなんて言ってしまった
きっと、魔が差したに違いない、心の奥底のこの想いを伝えたいという願望がそうさせたに違いない

さっきの自分の言葉に焦りなが、これから近藤が又煩く詮索するんだろうな等と考え両手で頭をゴシゴシを掻き、書類に埋まった机の上からタバコを取り出し、忙しそうにカチャカチャとライターの音立てて火を付けようとするが、手が震え旨く火がつかずクソッとタバコを口からはずして灰皿に投げ付けた
机に向かい直したが、やはり近藤の事が気になって仕事に集中する事が出来ない十四郎は、今日の仕事は終りにするかと私服に着替えて屯所を出た
真っ暗な闇の中に月が冴え冴えと輝いていた
「近藤さん、俺はアンタが幸せならそれで俺も幸せなんだぜ」
月に向かって十四郎は呟いた
そして、近藤に対する気持をまた、心の奥底に封印した

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