復活
□ごちそう【雲雀side】
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午後7時、校内の見回りを終え応接室に戻ると、扉の隙間から明かりが漏れていた。
この部屋に堂々と不法侵入する人物を僕は一人しか知らない。
ごちそう【雲雀side】
案の定、ソファーの上で気持ち良さそうに眠る草食動物…もとい山本武を見てため息を吐いた。
普段は他の草食動物と欝陶しいくらい群れてるくせに、何故僕のところに一人でのりこんでくるのか。
この間なんて応接室の冷蔵庫に勝手に牛乳プリンを持ち込み「俺が昼休み食うんだから、食べちゃ駄目なのな!」なんて命令してきたのだ。
「アハハ!違うって雲雀!命令じゃなくてお願いなのな」
それだけ言うと山本は、次は体育だからとさっさと出ていってしまった。
「…どっちにしても良い度胸してるよ」
弱い草食動物のくせに。
バタンと音をたてて閉まった扉に向かって小さく呟いた。
冷蔵庫の中を開けるとコンビニの袋に入れられたままの牛乳プリンがある。
正直、甘いものはあまり好きじゃないし、こんな訳のわからない食べ物なんて尚更だったけど、相手の思い通りになるのも釈だったのでわざと食べてやることにした。
一緒に袋に入っていた小さなスプーンで一口掬ってみる。
「……」
…甘い。想像以上に甘い。こんなもの好んで食べる奴の気が知れない。
でもこれで、いつもヘラヘラ笑っているあの男も少しは違った表情をするだろうか。
****
昼休みになってしばらくすると、応接室のドアがノックされ、草食動物がひょこりと顔を出した。
「雲雀ー?」
「返事する前に開けたらノックしないのと変わらないよ。噛み殺されたいの?」
「あーそっかそっか!ごめんごめん!」
山本はちっとも悪くなさそうに謝りながら、ずかずか入ってきた。
「サンキューな!冷蔵庫使わせてくれて。…あれ?俺どこ片付けたっけ…」
「ああ、あのやたら甘ったるいものなら食べちゃったよ。君、よくあんなもの食べられるね?」
「え?」
君が悪いんだよ。この部屋にあるものは全て僕のものなんだから。
山本は僕の言葉を聞くと俯いて小さく震え出したので、たかが牛乳プリンでと思ったがどうやら違ったらしい。
「ぷっ…アハハハ!!何だ、雲雀食べちゃったのかー!仕方ない奴だな」
「……」
顔を上げた彼はとても楽しそうに笑っていた。
次に来た時は、「放課後一緒に食べようなー」と、バニラとチョコのカップアイスを1つずつ持ってきた。しかも結構大きい。
さすがに2つも食べたら腹をくだすかもしれないのでそのままにしておいたら、放課後やってきた彼は冷凍庫の中を確認すると、僕の方へ振り向き嬉しそうに笑った。
「このメーカーのバニラは牛乳の味濃くてお勧めだぜ!」
「……」
というか、僕は何故草食動物が勝手に縄張りに侵入することを許したり、好きでもない甘いものを一緒に食べているのだろう。
人の気など知らず草食動物は今も目の前で無防備に寝息をたてている。
「…ねぇ、そんなに噛み殺されたいの?」
体の横に手を置いて、ゆっくりと体重をかけるとソファーがギシリと鳴る。
獲物はまだ起きない。
不意に、第二ボタンまで外された学生服から綺麗な鎖骨が見えて、自然と喉がなった。
おいしそう
衝動的に剥き出しのそこに噛み付くと、ビクリと山本の体が震えた。
「い…っ!!」
「やぁ、おはよう」
うっすらと口元に笑みを浮かべて、涙目の山本を見下ろした。
「っ〜!!痛いのな雲雀!!」
「ここで寝ていた君が悪いよ」
「っ……雲雀がなかなか帰ってこなかったから……あっ!!」
突然、山本は僕の体を強引に押し退け、ソファーの横にあったスポーツバックを漁りはじめた。取り出されたのは何やらパンダのイラストが描かれた袋。
「今日のおやつは甘栗なのな!!」
「……」
本当に何がしたいの君は。
「今日は、そんなものより君が食べたいな」
今だにソファーの上にいる彼の上にのしかかって言うと「それは痛いから嫌なのなー」と笑顔で言われた。
君、どういう意味か絶対わかってないよね?
「草食動物は草食動物らしく大人しく食われなよ」
傷口に唇をあてて軽く吸うと、彼の体がピクリと跳ねた。
「っ…、雲雀ってそのごっこ遊び好きなー。
ま、優しくしてくれるならいいぜ」
可愛い反応を見せたのは一瞬だけで、すぐに挑発するような目で僕を捕らえてくる。
ああ、これじゃあ草食動物というより、獰猛な獣を狩るハンターじゃないか。
「ますます食べたくなったよ」
一方的な食事じゃつまらないからね
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