頂き物・捧げ物

□悪戯
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「Trick or treat」




放課後の応接室。
日も沈みかけた頃、一人、黙々と事務仕事をしていた雲雀の背後から何やら楽しげな少年の声が聞こえた。




「仮装もしてない来客者にあげるお菓子はないよ」



青い髪をした少年は、いつも物音一つさせず突然現れるので雲雀はさして驚いた風もなく少年の方へ振り向いた。
雲雀の言葉に、この少年…骸は口元に手をあてクスリと微笑んだ。



「おや?誰かに化けて来て欲しかったんですか?」



意味深な骸の問いを雲雀は鼻で笑った。



「何それ?意味わかんないんだけど。第一、ハロウィンは秋の収穫を祝って、悪霊を追い出す祭りのはずだよ。そういう訳だからさっさと出て行ってくれない?」



「どういうわけですか?さすがの僕でも傷付きますよ?」


「どうだか。」




雲雀は机の上の書類を片付けるべく骸に背を向けてしまった。
骸は少しだけ恨めしそうにしばらくその背中を眺めていたが、不意にぽつりと呟いた。



「貴方がそんなにハロウィンに詳しいなんて思いませんでしたよ」


「そう」



雲雀は、振り向かず一定の調子でペンを走らせていた。


「あまり行事ごとには興味なさそうなのに」


「そうでもないよ。学校の風紀を取り締まるためにも、ある程度、知識は必要だからね」


「本当にそれだけですか?」


「…何が言いたいの?」


「………今日、僕以外の人間にも同じ台詞言われた…とか?」




それまで黙々と仕事をしていた雲雀の手がピタリと止まった。



「…だったら、何だって言うの?」



溜息をついて、雲雀は椅子から立ち上がり、自分より背が高い骸を睨んだ。



「っ…まさか、お菓子を持ってなかったせいで悪戯されたんじゃないでしょうね?」


「僕がそんなものを持ち歩く人間だと?」


「じゃあ、やっぱり…!!」



いつも穏やかな顔をしていることが多い(雲雀いわく、人を小ばかにした胡散臭い笑みを浮かべている)骸は、突然、書類やペンが散らばる机の上に雲雀を押し倒した。




「っ…、噛み殺すよ」


背中の痛みで若干顔を歪めながらも、雲雀は相変わらず骸を睨むことをやめようとはしない。



「この状況でよくそんなことが言えますね?貴方は、僕の前ではいつも被食者のくせに」


「腹立つんだけど、それ。僕がいつ被食者になったっていうの?」



口元は笑っているのに目が全く笑っていない。雲雀は背中に冷たいものを感じたが、あくまで表情には出さず、骸の頬を殴ろうと右腕を振り上げた。
しかし、体制的に不利な雲雀の拳はあっさりと受け止められ、逆に押さえつけられた。


「クフフ…惚けないで下さい。どこの馬の骨にやられたか知りませんが、貴方がそんな無防備な人間だとは…」


ふと、机の上に、あるはずのないものを見つけて、骸は動きを止めた。



「……持ってないって言ったじゃないですか…」


「言ってないよ。持ち歩かないとは言ったけどね。
物好きな後輩が、それじゃあ悪戯されるから持ってろって寄越してきたんだよ。」



雲雀は、押し倒された拍子にズボンのポケットから零れた、ピンク色の可愛らしい包みを手にとると悪戯っぽく笑った。



「でも、あげないよ」



包みの中の透明で赤いビー玉みたいなそれを自分の口の中へ放り込んだ。


「ほしかったら、自分で手にいれなよ」


先程殴ろうとした右手で、骸の頬に触れた。




「まったく…可愛い人ですね、貴方は」


「何それ?気持ち悪い」











お菓子より、もっと甘い甘い悪戯を貴方に。





END
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