草紙(長)

□天馬の嘶きは天に響く―碌―
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鳴蛇の放った妖気の飛礫が無数に襲い掛かる。

昌浩はその飛礫が己が身へと届く前に、剣を振るうことによって不可視の斬撃を放ってそれらを粉砕する。

「ちっ!本当に厄介な剣ですね。ならば・・・・・・!」
「!させるかぁ!」

苛立たしげに舌打ちをした鳴蛇は、昌浩の喉笛に噛み付こうとする。
しかし、そこへ翻羽(ほんう)が滑り込み、鳴蛇の顎を蹴り上げることによって、その牙から昌浩を逃れさせる。
顎を蹴り上げられたことによって体勢を大きく崩した鳴蛇を、すかさず昌浩が距離を詰めて叩き斬ろうとする。

「はあぁっ―――!」
「くっ!」

が、それに気づいた鳴蛇は己の尾を鞭のように振るうことで、剣を横合いから弾き飛ばす。
そして両者は後方へと飛び退き、互いに間合いに入るか入らないかの微妙な空間を保ちながら睨み合う。

戦況は均衡しているが、それも時間の問題だろう。あちらは一人、そしてこちらは二人だ。
今は戦闘に参加していないが、いざとなれば踰輝(ゆき)達の護りに回っている越影(えつえい)も動くだろう。
それを理解している鳴蛇は余裕の笑みをとうに捨て、今はその命を狩ることのみに集中している。

『―――大分苦戦しているようだな、鳴蛇よ』
「嶺奇様・・・・・。申し訳ありません」
『ふんっ!・・・・・まぁよい。少し力を貸してやろう』

大妖の翼が大きく広げられる。羽ばたきと共に妖力が膨れ上がり、その場にいた全員を包み込んだ。

「なに!?」

音が消え、風が異質なものへと変化する。
あたり一帯は完全な闇に閉ざされた。どこを見渡せど、その視界へと入ってくるのは黒一色である。

「ここは・・・・・!」
『天馬どもよ、貴様らは決して逃がせはせぬわ―――!』

嶺奇の唸り声が、黒の空間に反響する。

「まずい、奴の作り出した空間に取り込まれた!」

現状にいち早く気づいた翻羽は、そう叫んで他の者達に注意を促す。
翻羽の言葉に、昌浩や越影達も油断なく周囲へと視線を走らせた。
が、やはり目に入ってくるのは黒に塗りつぶされた風景だけであった。

 
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