草紙(長)

□天馬の嘶きは天<そら>に響く―壱―
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平和を突然襲った凶事。
数多の数の恐ろしい妖達が、天馬の郷を強襲した。

攻撃に特化していない天馬達は、次々に妖達の餌にへとされていく。
瞬く間に血の惨劇が出来上がった。

「越影!昌浩はっ?!」
「わからない!少し前に郷の離れの湖に行くといったっきりだ!!」
「くそっ!」

背後に妹の踰輝を庇いながら、翻羽は先ほどから姿を見ていない天馬の詳細を越影へと聞く。
翻羽に尋ねられた越影もそのことを気にしていたのだろう。郷の外れへと忙しなく視線を遣りながら、襲い掛かってくる妖達を薙ぎ倒している。
越影から返ってきた言葉に、翻羽は苛立たしげに言葉を吐き捨てた。

昌浩――彼の妹である踰輝より少し歳上の、そして翻羽と越影にとっては弟にも等しい存在である天馬の無事がわからない。
時間を追うごとに血溜りが広くなっていく中、踰輝を庇うことがやっとの二人には、昌浩の無事を確かめる余裕などなかった。

そもそも、戦いなどという物騒な環境になかった天馬達である。
いくらその身に宿る力が強大だとはいえ、戦いに慣れぬ身では虐殺者にその膝を折るしかなかった。
現段階で、唯一立ち向かっているのは翻羽と越影の二人のみである。

このままでは全員が殺されてしまう。

そう判断した二人は、踰輝だけでも逃がすことにした。


 
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