草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―捌―
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「うわっぷ・・・・・何?」

昌浩は強い風に思わず眼を瞑った。
そして目を開けた次の瞬間には、目の前に淡い紅色の袿を纏った少女が立っていた。
巻き起こった風に、濃い茶色の髪がふわりと揺れる。

突然姿を現した少女に、物の怪と六合は反射的に身構える。
そんな物の怪達の態度など視界にも止めず、少女は昌浩へと視線をまっすぐ向ける。

「お願い・・・・・桜の木を守って・・・・・・」

淡い緑色の瞳に痛切な光を乗せ、少女はそう言葉を紡いだ。
その必死さは苦しげに歪められた表情がありありと告げていた。眼の下に落とされた暗い影に、少女の焦りと疲労が色濃く浮かび上がる。

「守るって・・・・・」
「今日なの!今日で最後・・・・・・満月が完全に満ちきれば、すべてが終わる・・・・・それまででいいの!守って!!!」
「すべてが終わる??」
「お願い、今は瘴気を抑えるので精一杯なの!守りまで手が回らない・・・・・・」

はっきり言えば少女の言っている言葉の意味が昌浩にはよくはわからない。
しかし、その必死さに突き動かされ、昌浩はこくりと頷いた。

「わかった・・・・あいつから桜の木を守ればいいんだね?」
「えぇ・・・・・ありがとう・・・・・・」

昌浩が諾の返事を返せば、少女はほっとしたように僅かに目元を緩ませた。
桜の木を守ることを承諾した昌浩は、未だ少女への警戒を怠っていない物の怪達に視線を向けた。

「―――というわけだから、取り敢えずあの妖を払おう」
「おいおい、昌浩くんや。俺はちっとも状況についていけないのだが?」
「俺だってよくはわからないよ!とにかく、話はあの妖を片付けてからゆっくりしよう・・・・・・いいよね?」

やや苛立ちながら物の怪にそう返事を返し、言葉の終わりに目の前に居る少女に確認をとる。
問いかけられた少女は黙って頷き、了承の意を告げる。

「・・・・・とにかく、あの妖を片付ければいいのだな?」
「そういうことっ・・・・・我が身は我にあらじ、神の御盾を翳すものなり!!」

飛び出した昌浩は桜の木と妖の間に滑り込み、呪言を放つ。
昌浩の目の前に眼には見えない盾が現れ、飛び掛ってきた妖を弾き飛ばす。

体勢を崩した妖に六合が槍ですかさず切り伏せ、人型へと姿を転じた紅蓮が炎蛇で締め上げる。
妖の耳を劈くような叫び声と、じゅうと音を立てて焼かれる肉の匂いが辺り一帯を埋め尽くす。

「臨める兵闘う者、皆陣列れて前に在り!――万魔拱服!!!」

止めと言わんばかりに昌浩から術が放たれる。
妖の体に無数の亀裂が生じ、跡形も無く消え去った。


 
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