草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―伍―
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「このままじゃあ敏次殿が持たないよ!」
「他の奴らは何をぐだぐだと見守ってやがるんだ?さっさと手助け―――――って、おい!何皆して逃げ出すんだ?!あいつ一人置いていく気かっ!!?」
「どうやら助けを呼びに行ったようだな・・・・・」
「はぁ?!んな悠長なことしてる時間なんぞないだろうが?あいつらは木偶かウドの集まりか!?」

苛ついたように庭先の動向を見ていた物の怪は、必死に抵抗している敏次一人を置いて他の者達全員が逃げ出したことに、とても仰天したような声を上げた。
そんな物の怪の反応とは対称的に、六合は淡々と事実を話す。

そうこうしている内にも、徐々に敏次は追い詰められていく。

「っ!六合、長布貸して!!!」
「あ、あぁ・・・・・」

現状に見兼ねた昌浩が、六合に長布を貸すよう頼み込む。
六合は些か口篭りつつも肩に掛けていた長布を外し、昌浩へと手渡す。

「・・・・おい、またその格好で出るのか?」
「しょうがないじゃん!顔がばれる訳にはいかないんだし」
「まぁ、ソレはそうなんだが・・・・・・・・・」
「それじゃあ行くから―――っ!敏次殿!!」

六合から受け取った長布を顔に器用に巻き付けた昌浩は、木の根に捕らえられた敏次に気づき急いで飛び出す。

昌浩が飛び出すのと敏次が築地塀に叩きつけられるのがほぼ同時。

昌浩はこれ以上敏次に危害が加えられないように、地に倒れ伏す敏次と血染め桜の間に割り込む。
一拍遅れて物の怪と六合がそんな昌浩の前に出て戦闘態勢をとる。

新たな侵入者の存在に気がついた桜の木は、それを排除すべくその太い根を躍らせた。

「植物風情がいい気になるなよっ!」
「・・・・・・・・・」

額の花のような模様を淡く輝かせながら物の怪は咆哮する。
真紅の炎が次々と根を焼き払う。
六合も腕輪から槍へと変形させたそれで、襲い掛かってくる根を切り伏せる。


 
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