草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―参―
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一方、邸の中に足を踏み入れた敏次達は桜の木の前までやって来ていた。

桜の木を見上げ、皆一様に驚きに眼を見開いている。

「これは、またなんと・・・・・・・・」
「すごいな・・・・・・・・」
「あぁ・・・・・・」

皆口々に感想を漏らす。

見上げている桜の木はとてつもなく大きかった。それこそ庭に観賞用に植えてあるようなものではなく、山の中にでもありそうな巨木。
花弁の色も常の薄紅色ではなく、血のような紅。
それなのに嫌悪感も不気味さも悪い方向の感情は何も沸いてこなかった。

そこに感じるのはただ圧倒されるばかりの威圧感。

桜に威圧感など、そんな馬鹿なことがと思いたいのだがまるで魅入られたかのように視線が外せない。
誰ともなしに口から感嘆の溜息が零れる。

「確かに花は紅いが・・・・・・・これが本当に人を襲うのか?」

自分達は今桜の木の前にいるというのに、襲われる気配はない。
やはり酔っていた貴族達の虚言だったのではと思わずにはいられない。

もっと近くでよく見ようと敏次は桜の木に近づく。
幹に触れようと手を伸ばした瞬間―――――



「―――――え?」



何かが頬の横の風を切り裂いた。




ぱっ!と紅が舞い散る。




微かな衝撃が奔ったところが熱を帯び始める。








ひらり。







紅い花弁が一枚宙を舞い踊った――――――。






 
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