草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―参―
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敏次達から一人離れ、角を曲がった昌浩はそこで足を止めた。

「六合、悪いけど周囲の様子を見てきてくれる?」
「・・・・・・・・わかった」

昌浩に呼ばれ、顕現した六合は一つ頷くとその場を離れていった。
それを見送っていた昌浩に、物の怪は訝しげに問い掛ける。

「・・・・・・・で、六合の旦那に見回りを変わりに頼んでお前はどうするんだ?」
「ん?いや、敏次殿達の様子でも見てようかな〜と。別に一緒にいてもいいんだけど、もしものことがあった時その場にいたんじゃ手助けしようにもできないかなぁと思って・・・・・・・・・・」

あ。もちろん敏次殿の実力に不安があるわけじゃないからね!俺が一方的に心配してるだけだから!!

困ったように後ろ頭を掻きつつ、昌浩はそう言った。
何もなければそれに越したことはない、その場合は何食わぬ顔で彼らのもとに戻ればいい。
そう結論付けた昌浩は六合に見回りの代わりを頼み、敏次達のことをこっそりと影から見ていることにしたのだ。

そんな昌浩を物の怪は不機嫌そうに眺め遣る。

昌浩の実力をよく知っている物の怪としては、それが隠密行動のためとはいえ、昌浩は陰ながらにしか事を起こせないことをとても悔しく思っている。
確かに、本当の実力を示して若いうちからいらぬ苦労をするのは困りものだが、それ故に人前では思うように実力を出せない昌浩を不憫に思うのも確かだ。

「それじゃぁ、行こうもっくん」
「もっくん言うな晴明の孫!・・・・・・で?どこから様子を見てるんだ?」
「孫言うな!!―――どっか桜のある庭を見下ろせる場所かな?塀とか屋根とか・・・・・・・・」
「・・・・・・・なるほど、高い場所にいた方が見つかりにくいか」
「多分ね。・・・・・それに高い場所の方がよく見渡せるだろうし」

昌浩はそう言って、すぐ目の前にある塀を見上げる。
物の怪はしばらく考え込んだ後、一つ頷くと助走もつけずに昌浩の肩にひょいと飛び乗る。

「もっくん?」
「旦那が帰ってくるまで少し待て、そしたら屋根の上にでも運んでもらってあいつらの様子を見ればいい」
「六合に?」
「あぁ、俺が元の姿に戻ると神気を隠し切れないからな。その点、六合なら隠形したままでもお前を運べるだろう?」
「なるほど」

物の怪の言い分は最もだったので、昌浩は納得したように頷く。
確かにその方が何かと見つかりにくいだろう。


そういうわけで、昌浩と物の怪は六合が周囲の見回りから戻ってくるのを待つのであった。



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