草紙(長)
□孤絶な桜の声を聴け―壱―
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物の怪と熾烈な舌戦を繰り広げている最中でも、昌浩は何とかして雑鬼の山から抜け出そうとあがく――――あがくのだが、今回ばかりはどうやっても抜け出せない。
そんな昌浩の様子を見かねて、それまで穏形していた六合が顕現して雑鬼の山から昌浩をひっぱり出す。
「ありがとう」
昌浩のお礼の言葉に六合は沈黙をもって返し、再び穏形した。
六合が穏形するのを見てとってから、昌浩は雑鬼たちに向きを変える。
「お前らな〜、よくもそう毎日飽きずにやってられるなぁ…」
眉を軽く寄せて溜息混じりに言う。
ま、それをいうなら自分も毎日飽きずに潰されている気もしなくはないのだが…。そのことはあえてつっこまずに昌浩は言葉を繋げる。
「というか、どうやって俺の場所がわかるんだよ…」
昌浩の問いに雑鬼達は、にか〜っと笑って返す。そして口々に答える。
「そんなの簡単!」
「お前を誰かが見かけたとするじゃん」
「そーするとそいつはすぐ近くにいる仲間に報告する」
「んでもって、その仲間も他の奴らに報告すると」
「すると、だ。その話を聞いてここぞって皆が集まる」
「で、大体潰すのに丁度いい頭数になったあたりで―――」
「お前を潰しにかかると」
「簡単だろ?」
「………………」
嬉々として語る雑鬼達を、昌浩は苦笑ともあきれ顔ともつかない表情で見ている。
なんというか、妙なところで息が合っているというか、変に連携プレーが成り立っているというか……。
そろそろ夜警の続きにでも戻ろうかと考えていたところ、一匹の雑鬼がふと思い出した様に言った。
「そうそう、こんな噂を聞いたか孫」
「孫言うなっ!――――で、噂ってどんな噂だ?」
「五条大路のはずれで、少し小路に入った所なんだけどさぁ。そこに古い邸があるんだけど、そこに大っきな桜の木があるの知ってるか?」
「いや、知らないけど……それがどうかしたのか?」
「それが…花が咲いてるんだよ」
「花?この時季にか?」
今は水無月の初め、暦の上では今は夏の真っ盛り。少々季節外れ…というにはほどがある。
訝しんでいる昌浩を見ながらその雑鬼は一つ頷く。
「そう、この時季にだ。それはすごいのなんのって…」
「すごいって?」
首を傾げる昌浩。そんな昌浩に雑鬼は幾分か声をひそめて言う。
「大きさもすごいんだけどさ…なんと花の色が紅いんだよ」