草紙(長)
□曼珠沙華はうち時雨に濡れる―伍―
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ザアァァァァッ・・・・・・・・
少し強めの風が吹いていく。
バサッ
風が吹くと共に衣の裾が翻る。
「―――確か、この辺・・・・・・のはず」
辺りの風景を眺めながら昌浩はぽつりと呟いた。
幼き頃に場所を移し変えた彼岸花。
もし、数日前の自分達の前に姿を現した紅い髪の女の人の正体がそれだったのであれば、ここを訪れれば彼女に会えるかもしれない。
そう考えた昌浩は、物の怪を伴って街外れのこの地にやってきたのだった。
「やっぱり思い違いだったのかな・・・・・・・」
「う〜ん、気配も何も感じないからな・・・・・・・わからん」
少々、肩を落して呟いた昌浩に、辺りの気配を窺っていた物の怪はそう返した。
初めて会ったときもそうだが、あの紅い髪の女の気配を捉えるのは非常に難儀なのである。
存在感も儚く、感じる霊的気配もかなり希薄だ。
「う―ん、違ったのかなぁ・・・・・・・」
勘違いだったのかと思い、昌浩は溜息を吐いて踵を反そうと思ったとき―――。
「―――どうして・・・・ここがお分かりになったんですか?」
と、例の女の人の声が耳に届いた。
「あっ・・・・・・・」
「どうやら間違ってなかったようだな」
昌浩達から少し離れている場所に女の人は立っていた。
昌浩は女の人の姿を確認するとほっと息を吐いた。
「・・・・・よかった、見つけられて」
「あ、あの・・・・・どうして・・・・・」
「あ、うん。・・・・・夢、見たんだ」
女の人へ一歩踏み出しながら、昌浩は口を開く。
「夢ですか?」
昌浩の言葉に女の人は不思議そうに首を傾げる。
「うん、俺が小さかった頃の夢。日の当たりが悪くて、元気が無かった彼岸花を移し変えたっていう夢・・・・・・・。その彼岸花が貴方だったんだね?」
半分は疑問、半分は確信の意味を込めて女の人に視線を送る。
「・・・・・はい、そうです。貴方は私にとって命の恩人です。あの時貴方があの場所から私を移し変えてくれたおかげで、私は今日まで生きながらえることができました」
そう言って女の人はにっこりと微笑む。