草紙(長)―弐―
□『沈滞の消光を呼び覚ませ』―序章―
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〔序章・壱〕
そよぐ風。
揺れる草花。
木々のざわめき。
土の匂い。
世界が暖かいことを知っていた。
世界が厳しいことを知っていた。
世界が優しいことを知っていた。
世界が、眩しいことを知っていた――――――。
唯一無二の何者にも代えられない存在を手に入れた。
唯一無二の何者にも代えられない存在を失った。
心は引き裂かれ、血を流す。
大切なあの方はどこへ消えた?
大切なあの方はどこにいる?
自分達が賜った役目など、あの方がいなければ意味が無い。
自分達が賜った力など、あの方がいなければ用を成さない。
自分達が美しいと思った世界など、あの方がいなければただの白と黒の絵。
探そう。
唯一無二の何者にも代えられない存在を。
探そう。
真黒の世界を照らし出す一条の光を。
進むべき先が見えない世界の中で、彷徨い人は一人の子どもと出会った―――――――。