草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―碌―
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「―――――殿!敏次殿!!」
「・・・・・・・・っぁ・・・ま、昌浩殿?」

気を失っていた敏次は、誰かの呼び声で目を覚ました。
薄っすらと目を開ければ、心配そうに覗き込んでいる直丁の昌浩の顔が目の前にあった。

目を覚ました敏次を見て、昌浩はほっとしたように頬を緩めた。

「・・・・・よかった。大丈夫ですか?」
「わ、私は一体・・・・・・?」
「見回りから帰ってきたらここに敏次殿が倒れていたので驚きました。・・・・・・あの、何かあったのですか?他の皆さんは・・・・・・・」

敏次は昌浩の手を借りて体を起こしつつ、周囲を見渡す。
どうやら邸の入り口らしい・・・・自分が居たのは邸の中にある庭であったはずなのだが、何故こんなところで倒れているのかさっぱりわからない。

何故敏次が庭ではくて邸の入り口いるのかというと、突然桜の木が暴れるのをやめたが、いつまた暴れだすのか分からないので一応安全なところまで六合に運んで貰ったためである。

「あぁ、血染め桜が突然暴れだしてね・・・・・・どうにも手に負えないようだったので、他の者達に応援を呼びに行って貰ったのだよ」
「えっ!敏次殿を一人置いてですか!?」
「そうだ。私がそうするように言ったのだよ。応援が来るまでは何とか私一人で持ちこたえようと思ったのだが・・・・・・情けないことに吹き飛ばされた弾みに気を失ってしまったようで・・・・・・・・そうだ!昌浩殿。ここに来たとき誰かを見かけなかったかい?」
「え?い、いえ・・・・・・俺が来た時には誰もいませんでしたけど・・・・・・・・」
「そうか・・・・・・気のせいか?いや、しかしあれは確かに以前会った謎の術者・・・・・・・・」

後半は独り言のように、口の中でぶつぶつと呟きながら物思い沈む敏次。
そんな敏次を見て、昌浩は背中に冷や汗をだらだらと流す。

元々昌浩は嘘を吐くことが大変下手である。
今現在は職場で磨き上げたなけなしの演技力で凌いでいるが、何時ぼろを出してしまうのかと額に汗を浮かべながら敏次の様子を見守っている。

(昌浩よ、顔が引き攣ってるぞ・・・・・・)

昌浩と敏次からやや距離を置いて、その様子を見ていた物の怪はやれやれと溜息を吐く。

「えっと・・・・この後はどうしますか?」
「ん?そうだな・・・・・取り敢えず、調査はここまでにしておこう。報告は私がしておくから、君はこのまま邸へと帰りたまえ」
「え?ですが・・・・・・」
「ここから君の邸まではかなり距離があるだろう?あまり遅くなるとご家族が心配する」
「・・・・・わかりました」

敏次の有無を言わせない口調に、昌浩は折れるしかなかった。

帰り道の途中までは敏次と帰り、応援として駆けつけた陰陽寮の人達と途中で合流し、昌浩は敏次に別れの挨拶をすると一人(+一人と一匹)で帰路についた。




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