草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―伍―
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「うわー、何と言うか・・・・・・・悲惨な光景だねぇ〜」

六合に屋根上へと連れて行ってもらった昌浩が、庭の様子を見て最初に言ったのがこの言葉である。

「・・・・・・そんな軽い口調で言われると、全然悲惨そうには聞こえないぞ?」
「え?そう?これでも真面目に言ったんだけど・・・・・」
「どこが!どこらへんがだ!?そんな間延びした口調のどこを真面目と言えるっ!!!」

胡乱下に昌浩に視線を寄越してくる物の怪に、昌浩は至極普通の顔でそうのたまった。

物の怪はそんな昌浩に、思わず突っ込みを入れずにはいられなかった。
些か興奮気味の物の怪の言動に、昌浩はひどく五月蝿げに眉を顰めた。

「っさいなぁ・・・・一々人の言うことに突っ込みなんか入れないでよ」
「好きで入れてないわっ!!」
「・・・・・様子、見なくていいのか?」

いつまでも続きそうな漫才じみた会話に、六合が冷静に言い放った言葉が割り込む。

六合の言葉に、二人はぴたりと言い争いを止める。
まさに鶴の一声。

当初の目的を思い出した二人は、改めて庭で奮闘する敏次等と血染め桜の木へと視線を戻す。

「――っと、忘れるところだった」
「忘れるなよ、一応現在進行形であっちは大変な思いをしてるんだから・・・・・・・・・・・」
「ん。それはもっくんの所為」
「俺の所為かよっ!」
「うわぁ、あれに張り倒されたら痛そうだなぁ〜・・・・・敏次殿達、大丈夫かな?」
「人の話聞けよっ!!」

この二人の遣り取りを止めれる者は誰もいない。いや、すでに呆れ果てて止めようとも思わないだろう。
その最たる人物が、二人と行動を共にする割合が比較的に高い六合だ。
まぁ、彼の場合は元からそう口数は多くないので今更である。

「あっ、やばいよもっくん!!」
「何が?って・・・・・・あ〜ぁ、情けないなぁ」

物の怪と軽口を叩きつつ庭の様子を眺めていた昌浩は、突然焦ったような声を出す。
それに釣られて物の怪も庭へと視線を向けると、丁度敏次が桜の木に捕らわれそうになっているところであった。


 
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