草紙(長)

□孤絶な桜の声を聴け―壱―
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『孫―――――――――っ!!』

威勢のいい掛け声と共に大量の雑鬼たちが、「あの晴明の孫」こと安倍昌浩に向かって雨の如く降り注ぐ。

盛大にぐしゃっ!と潰れる昌浩。

「いやぁ〜、やっぱ孫を潰すのは楽しいな―――――」
「そうだな。毎夜孫を潰すのが日課で、生きがいになってるからなぁ」
「そうそう、日々の暮らしに潤いが出てきたって感じ?」
「全くそうだな。一日一回は潰さないと収まりがつかない感じがするんだよなぁ」

などと昌浩を潰したままの状態で雑鬼達は他愛もない会話をする。一方、潰されている昌浩はというと。

「孫言うな―――っ、てか人を潰すのに生きがいを感じるなっ!」

と大量の雑鬼達の下でじたばたと暴れながら叫び声を上げている。いつもより上に乗っている数が多いらしく、雑鬼達の山から抜け出せないでいる。

そんな雑鬼達の山の傍には、一匹の物の怪がいた。

大きな猫のような体躯に白い毛並み。耳は長く、夜気を含んだ風に軽くそよいでいる。額には花びらのような紋様。丸い目は透きとおるような夕焼け色で、それと同色の勾玉のような突起が首周りを一巡している。

そんな物の怪が溜息混じりに口を開く。

「いくら潰れが毎日の習慣になっていからって、そうそう何度も潰されるなよな〜。見てるこっちがあまりの情けなさに、いらない涙がこみ上げてくるぞ…うっ、ううっ。――――しっかりしろよなぁ、晴明の孫」
「孫言うなっ!物の怪のもっくん!!」
「もっくん言うなっ!」

昌浩は大げさに泣くふりまでする物の怪に怒りの矛先を代え、熾烈な舌戦を繰り広げる。

日常恒例(?)の一日一潰れの図と昌浩・物の怪の舌戦の図、である。


 
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