草紙(長)
□曼珠沙華はうち時雨に濡れる―弐―
1ページ/3ページ
「う〜ん・・・・・・」
陰陽量の一角で唸り声が上がる。
書写のために墨をしゃこしゃこすりながら昌浩が発しているものである。
「う〜ん」
「はぁ〜」
昌浩の唸りと物の怪のため息が重なる。
「お前なぁ、今朝から何回唸ってるんだよ・・・・・」
実質は夜景から帰ってきてから、だが。
今朝から数えたにしても、唸っている回数は数えきれなくなっている。
「もっくん、あの紅い髪の女の人のことどう思う?」
「どう思うってなぁ・・・。まぁ、多分あれは妖じゃなくて『精霊』だと思うぞ」
「精霊?」
物の怪の言葉に昌浩は首を傾げる。起用に腕組みしながら物の怪は答える。
「そう、精霊。――簡単に言えば木とか草とか物とか・・・いろいろあるが、そういったものがものすっごく長生き(長持ち)して力を持つようになったやつのことだ」
「ふ〜ん・・・・・・・」
「で、夜警から帰ってきてから散々唸ってるみたいだが、なんか思い出さないのか?」
「う〜ん、全然だめ。これっぽっちも思い出せないや」
「そうか・・・まぁ、お前が5歳の時だもんな〜。―――ん?」
「どうしたの、もっくん?」
急に思案気な様子を見せる物の怪に昌浩が問いかける。
「お前が5歳の時といったら、一旦見鬼の才が封じられて妖とかそういった類は見えなかったはずなんだが・・・・」
「あ・・・・・・・」
見鬼の才が封じられていたという事実を思い出して、二人(この場合一人と一匹?)顔を見合わせる。
「どういうことだ?」
「姿が見えないってことは、俺があの人の顔を覚えてなくても何ら不思議じゃないと思うんだけど・・・・・・」
「う〜ん、そういう問題も出てくるのか」
「あ〜もう!一体何処で会ったんだよぅ!!」
8年前というかなり昔の出来事に加えて、姿が見えない――会った記憶もないはずなので自然と行き詰るのは必須のこと。喚きたくもなる。