草紙(長)

□ 水鏡に響く鎮魂歌―参―
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「久しぶりだね、昌浩。元気だった?」

にっこりと笑いながらそう聞いてくるのは自分と顔が良く似ている寛匡。
血臭漂う中、その笑みはひどく不釣合いなものであった。

叫び声を聞きつけ、慌てて駆けつけた昌浩達が見たものは懐剣というには長く、長剣というには少々長さが足りない剣を携えている寛匡と血溜まりに沈んでいる男。

「なっ!貴様・・・・・」
「だいじょ―ぶ!殺してなんかないよ。ちょっとだけ出血が多いだけだからv」

倒れ伏す男を見つけ目許を険しくする物の怪に、寛匡はにっこりと擬音語が付くような笑みで答える。
状況を見るからに―――いや、見極めるべくもなく男をその様にしたのは目の前で笑む少年。

正直言って、今までの行動からではこの少年の真意を図ることはできない。
標的対象はわかる。それは推し量るべくもなく安倍の血を継いでいる者。
しかし目的がわからない。
今まで襲われたのは成親達含めて六人。
最初に襲われた二人は軽傷、その後に襲われた残り四人は重傷。しかし、死人だけは未だに出ていない。
もし、安倍家に恨みがあるとして何故怪我程度に止めているのか・・・・・・・。
これがそこら辺にいるへっぽこ術者(物の怪曰く)ならばそれで納得もしよう。
しかし、この昌浩そっくりの顔をしている少年はそれには当てはまらない。
分家ならまだしも、吉昌が息子の成親・昌親にまで傷を負わせることができる術者。
これは弄んでいるとしか言えないではないか。

更に言えば理由もわからない。
本人が告げない限りにはわからないのは当たり前なことではあるが、それを差し引いても不信さが残る。
殺気を始め、恨みや怨念、嫉みなど様々なものがあるが、その様な負の感情に属したものが彼の少年からは全くと言っていい程感じられないのだ。
そんな少年が意味もなく安倍の者を襲ってくるというのも不可解なことである。
それらを総じて考えれば、この目の前に対峙している少年は《謎》の一言に尽きる。

 
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