草紙(長)

□天馬の嘶きは天に響く―参―
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一方、墨色の大路へと降り立った天馬―――昌浩は、周囲の気配を窺い気落ちしたように息を吐き出した。

「一足、遅かったか―――・・・・・・」

つい先刻、この辺りから馴染み深い―――翻羽と越影の気配を感じ、急いで空を翔けてきたのだ。しかし、今はその気配も完全に消え去っており、残り香らしき気配さえもない。

偶然通りかかった小さな島国。
その島国から同胞の気配がしたので、慌てて気配を追ってやって来た都。
急ぐあまり都を覆う結界を無理矢理に突破した所為で、現在一時的に探査能力が落ちている。余程明からさまな気配でないと、その居所を察知することは難しいだろう。

「もう、別のところに移動しちゃってるってことは・・・・・・ないよね?」
「誰がじゃ?」
「―――っ!!」

思わぬ返答―――しかもかなりの至近距離から聞こえてきたことに驚き、昌浩は咄嗟に声が聞こえてきた方向とは逆方向に大きく跳躍する。

「おっと、大人しくしてもらおうか?」
「なっ・・・・!」

着地と同時に背後から何者かに羽交い絞めされてしまい、昌浩は軽い混乱を起こす。しかしその混乱も僅かな間のことで、すぐさま正気へと返ると、その腕から逃れるべく暴れだした。

「――!はっ、放せっ!!」
「って、おい!こら、暴れるな!!」

無茶苦茶に暴れだす腕の中の妖異に、捕らえていた者―――紅蓮は慌てたような声を出す。
しかし、暴れる妖の耳には届いていないのか、一向に大人しくなる気配がない。

「このっ!いいかげんに―――・・・・・」
「これ、紅蓮や。手荒な真似は止めなさい。ほれ、相手も突然後ろから羽交い絞めにされて驚いておるではないか」
「しかしっ、また先ほどみたいに逃げられても困るだろうがっ!!」
「・・・・放しなさい」
「っ!―――わかった」

晴明の有無を言わさぬ力強い言葉に、紅蓮はしぶしぶながらに捕らえていた妖を開放する。
開放された妖―――昌浩は、警戒するように二人から距離をとろうとする。が、気がつけば己を囲むように幾人かの人影が佇んでいることに気がつき、その場で動きを止めた。


 
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