草紙(長)
□天馬の嘶きは天に響く―弐―
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『さぁ、方士よ。我々に屈しなさい。そうすれば、苦しまずともすみます』
「ぬかせ!」
『あなたには何も言っていませんが・・・・。邪魔をすると痛い目を見ることになりますよ』
「できるものならやってみるがいい。十二神将騰蛇を侮るなよ」
男の言葉に、紅蓮は口元に凄絶な笑みを浮かべながら、鳴蛇達へと向けて炎蛇を放った。
それから晴明並びに十二神将達と鳴蛇達との激しい戦いが始まった。
炎蛇が宙を躍り、妖力が閃光を伴って爆発し、霊力が風を逆巻かせて荒れ狂う。
混戦の中、甦った妖異たちはその姿を消していった―――。
『雑魚相手でしたら、そこそこおやりになるようだ』
紅蓮の金色の双眸が剣呑に光る。
「次は貴様だ、鳴蛇よ」
人の姿をした妖異は、首を傾けてうっそりと笑う。
『私が相手をする必要はないでしょう。そろそろ・・・・・・・っ!』
ふいに、それまで鳴蛇の顔に張り付いていた余裕の笑みが剥がれ落ちた。
妖異が身を翻した瞬間、一同を取り囲んでいたはずの結界が破砕音と共に破られる。
ばさり。その場にいた全員の耳朶を、大きな羽ばたきの音が打った。
引かれるように仰いだ視界に、二つの影が掠める。
「・・・・・なっ!・・・・・・」
瞠目する晴明達の目の前へと、その二つの影は滑空してきた。
一歩後退った晴明達の前に、純白と漆黒の異形は降り立ち、瞬く間にその身を人のものへと転じた。
どちらも、異国の衣装を身にまとった長身の男だった。