ゆめのはきだめ
□救済にも似た痛みを頂戴
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首を絞めてくれないかしら。
「・・・またかぁ」
始まった、と顔にこそ出さないものの、俺は盛大に溜息を吐き出す。何時からだろう、こいつは度々俺に首を絞めるように頼み込むようになった、お願いだから私の首を絞めて、と。初めて然う云われた時はこいつに甚だしいマゾヒズムの気があるのかと思った。しかし違ったのだ、実際は。
嗚呼こいつの望みならばと、いっそ毒々しいまでに白い首筋を己の手のひらで覆って力を込めた時、彼女は云ったのだから。
私の首を絞めている間、どうか声を出さないで、話し掛けないでね
そしてそいつは目をつむる、柔らかな動作で、しかし固く、決して俺の顔を、或いは現実を見ないように。首への圧迫に伴っては歪む顔と、細やかに震える睫毛、しかし其の面持ちには確かな安息が存在していた、そして俺は知る。
今こいつの首を締め上げて居るのは俺じゃない、あいつなんだろう、こいつが愛した、そして今も変わらず愛して居る、あの男。(もう此の世界には居やしない、あの、)
―気に入らねぇ、なぁ。酷く加虐的な笑みの持ち主だったあいつを未だ恋い焦がれるか、今お前を欺瞞と快楽の淵へ追いやる指は俺の其れだと云うのに、一体誰の姿を見て居るのだ其の伏せた瞼の裏に。
「っ、」
無性に腹が立ったから、未だ俯いて大人しく首締めを甘受するそいつの唇に思い切り噛み付いてやった。(声を出さなきゃいいんだろぉ?)冷たい唇がびくりと震えたのを同じく唇で受け止めて俺はほくそ笑む。精々甘やかな息苦しさの中から、痛みに目を覚ましては俺の姿を其の瞳に映すがいい。
救済にも似た痛みを頂戴
20080204
何かヒロインがすきなのはベルなイメージでしたけど誰でもいいです←