ゆめみぐさ

□被食者の爪先
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彼に強く引かれた儘の手の指先に鈍く痛みが走る、彼の歯が立てられた親指からツ、と流れた私の血液がぼろぼろの爪を滑り落ちて。深い紅のマニキュアの上に鈍く光る赤の軌跡。(か、噛まれ、た?)


「な、ななな、何す、」

「オレお前の泣き顔すきだよ、なぁオレにしとけって」



今さっき出会ったばかりだと云うのになんて不躾なひとなんだろう!其れでも、余りに凍えるような寒空の下、彼が握った私の手と一切防寒されていない筈の私の顔が、酷く熱を持っているのは自分でもごまかしようがない。くらくらするのだ、凍てつくような寒さの所為でもなく咽せ返る雑踏の所為でもなく、勿論失恋の所為でもなく。
嗚呼如何しよう本当に最悪の新年の幕開けだ、――まだ春は遠いというのに。



「オレのもんになりなよ」



然う云って私を見下ろした其のひとは、からかうように自分の親指の爪を軽く噛んで笑った。












(脆弱な其の手が欲しがるものは、)










20080106
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