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□王都陥落
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V、『ライネル・アルタミルの陰謀』


アクアパレスからおよそ三キロ離れた場所には広大な森林が広がり、その森はそのままシルフ山の裾野へと伸びて、自然豊かなラハイナ王国を彩っている。
「ラハイナの王弟は出たか!」
何もない山中には、場違いな程豪奢な甲冑に身を包んだ男は、口に含んだ葡萄酒を飲み込んだ。
その男、アルタミラ帝国皇帝ライネル・アルタミルは、蚊に食われた腕を掻き壊し、滲んだ血の上から更に爪を立てた。
アルタミラ帝国の玉座に座っているはずの皇帝は、四十三歳の絶頂期を過ぎた体を起こし、椅子から立ち上がると、伝令兵に手を上げた。
その行き先はシルフィア川の上流である。
「しかし余の元に、時の満ちる頃近し、と文が来てからいか程が経つか」
ライネルはそう言うと後方を振り返った。
視線の先にはライネルとは対照的な、巨躯を持つ男が、うやうやしく控えている。
左の目には頬まで伸びる傷が残り、瞼を塞いでいる。
残る瞳がライネルを見つめている。
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