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□王都陥落
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U『王弟出陣』


垂直に空を向いた剣が、勢いよく降り下ろされ、水平に止められると、惰力を残す事なく、ピタリと止まる。
真夏の太陽が汗を滲ませ、降り下ろされた腕の遠心力に耐えきれず、宙を飛んだ。
アルドールは短く切り揃えた髪から伝う汗を拭うと、晴れわたる空を仰いだ。
マンデライド軍を撃退し、カッサンドル城に戻ってから三日がたっている。
アルドールは朝日に照らされる中でいつもの様に剣を振るっている。
河川から吸い上げる水は、アクアパレス全域の生活水として用いられ、カッサンドル城を潤しているのも、シルフィア川の恩恵である。
アルドールの脇に流れる、小川を模した水の流れに、日光が反射して、アルドールを突き上げる様に照らすと、また剣を振り下ろす。
素振り一つ取っても、緊張感を失わないのは、アルドールが十分に戦場を知る者であるからだろう。
「王弟殿下」
聞き覚えのない声に振り返ると、体に合わない甲冑を鳴らし、まだ若い兵士が緊張の面持ちで立っている。
顔がやや上気しているのは、おそらくアルドールの気のせいではない。
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