また会える、その日まで(中編)

□〜秋〜
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〜秋〜

2学期が始まった。
なんということもなく、制服に身を包み新学期をスタートさせた。
タイムリミットまで後わずか。
少しでも長く普通に過ごすために、私はこの学園で生活をしていくことを決めた。
さすがに体育なんてのは出来ない。
心臓に悪すぎると。
延命治療をうけないにしても、当然今の様子を見るために病院には通っている。
そんな不便な体だけどもこの学期は文化祭に体育祭と行事を楽しめる。
最後の行事ということもあってなかなか皆楽しんでいて、気合いも入って暑苦しいくらい。
私もちょっとしたお手伝いとかには積極的に参加して。
時が流れるのなんてすぐだと。

そんな平和に続く日々の中でも、私の体は少しずつ終わりへと向かっていた。
少しずつだが発作も増えている。
ギリギリな体を引きずるようにして学校に行く日々。
堪らなく怖かった。

そしてついに倒れた。

気がついたとき、私は病室で寝ていた。
目が覚めて最初に見たのは両親の泣き顔。
私には、二人を泣かすことしか出来ない。
そう感じた。

担当医の話では学校に行く最中に発作が起こり意識を無くしたとのこと。
こんなことがこれからも起こる。
そう考えると怖くて怖くて。
でも泣かない。
だって残りの人生を決めたとき、絶対両親の前では泣かないと誓ったのだから。

担当医の話ではしばらくの間入院とのこと。
発作の回数を踏まえて様子を見るらしい。
すでに学校には連絡済みとのことで、病室にこもることになった私は小鳥の鳴き声に耳を澄ましていた。
全ての生き物には寿命がある。
今こうして飛んでる小鳥だって、虫たちだって人間だって同じ。
生きるということは奇跡そのものなんだと感じる。
そんなことを考えてると、病室の外から誰かが走ってくる音が聞こえた。
ここは病院なのに、そんなことを考えるよりも先に、病室の扉が勢いよく開かれた。
その音にビックリして扉に視線を向けると、そこには肩で息をする土方先生がいた。

「そんなに慌ててどうしたんですか」

つい漏らしてしまった声に、土方先生は即座に反応してきた。

「生徒が運ばれたんだ、慌てないわけねぇじゃねえか」

相変わらず肩で息をする先生を見ると、少し気が抜けて。

「座って下さいな、先生」

椅子を差し出すと、そこに腰かけた先生からは少し汗の臭いがした。

「そんなに急がなくても大丈夫でしたのに…死ぬわけじゃありませんし」

ついつい口から出た言葉に、ふと笑った。
(死ぬわけじゃない、か)
まるで自分に言い聞かせるかのような言葉だ。

「簡単に死ぬとかいう言葉、言うんじゃねぇ」

凛とした声にチラリと横を見ると、真剣な表情をした土方先生の目と合った。

「心配するじゃねぇか、倒れたなんて聞いたら…まだまだ若いんだ、これからの人生の方が長いんだぜ?身体には気をつけねぇとな」

その言葉に目を見開いた。

そっか。
私と先生の時間は違うんだ。

何故かその事実が辛くて。
ついつい緩んでしまった涙腺を止めてから気がついた。
そっか

(私、土方先生が好きなんだ)

だから先生との時間の差が辛い。
どれだけ頑張っても先生と同じ道は歩けない。
その事実が一番辛い。
なら今精一杯恋をしよう。
告白なんてしなくていい、報われなくていいから。
この気持ちを持っておこう。

この日から先生はよくお見舞いに来てくれた。
忙しいだろう時間の合間を使って学校での出来事を話してくれる。
いつしかつまらない入院生活の中で、それが一番の楽しみになっていた。
そんなある日のこと。
この日もいつも通り先生は会いに来てくれていた。

「なぁ、お前は将来何になりてぇんだ?」

“将来”
その言葉に時間が止まったような気がした。

「そう…ですね…」

息苦しくて。
私に未来なんてない。
そんな忘れかけていた事実を突きつけられて。
まるで地獄に叩き落とされたような気分だった。

「天使、ですかね」

つい漏れた言葉に自分の諦めを感じた。

「なんだそれ、そうじゃなくて就きたい職業とかだ」

私の言葉に笑った先生はあまりにも綺麗だった。
学校で見ることの無い笑顔に、少し嬉しくなる。
でもなかなか難しい質問だ。
就きたい職業なんて考えたことも無かった。
まずそこまで生きられないのに。
でもなんだかまだまだ生きれる気がした。
暗くなるもんじゃないな。
意識して思った訳じゃないだろうその言葉に、私は励まされていた。

「それなら先生みたいな教師になりたい」

こぼれた笑顔は久しぶりで。
自然に笑えたかは分かんないけど、少し幸せな気持ちになった。

「やっと笑ったな」

その言葉にビックリした。
先生は見てたんだ。
私のことを。
そう考えると嬉しくて。

「笑ってる方が綺麗だ」

これだけのことなのに、生きてると感じれた。
幸せな気分になるこれが、恋なんだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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