さようならと……(長編)

□想いと壁
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あの日から数日が経った。
山南さんの負傷のことは誰も口にすることは無かったが、皆が心配していることはよく分かった。
それが何の意味を表すのかも。
 
 
 
 
 
 

ようやく二人が帰ってきたのは、皆が食事をとっている広間で、いつものように永倉さんと平助、神楽の三人が派手に昼食のおかずをとりあい、総悟が土方さんにイタズラをしていた最中だった。
静かに板戸が開く。
旅装束を解かぬまま入ってきた副長の後ろからは、山南さんが歩いてくる。
そしてその姿を見て息を飲んだ。
浅葱色の羽織で隠すようにはしているが、白い布で包まれている左手が痛々しい。
何より顔色が冴えない。

「只今戻りました」

「総長、副長、お疲れ様でした」

山南さんの声に、箸を置いた斎藤さんは居住まいを正し、挨拶をした。
沖田はチラリと視線を移し「あ、おかえりなさい」と挨拶だけをする。
上座に座っていた近藤さんは、

「ご苦労だった、腕の傷はどうだ?」

と労いもそこそこに山南さんに訊ねるが、山南さんはいつも通りの穏やかな口調だったが、その表情は作られたもの。

「ご覧の通りです、不覚をとりました…大丈夫ですよ、見た目ほど大袈裟な怪我ではありませんから、ご心配なく」

「山南さん、飯は?」

そんな平助の言葉に、結構です、と言い

「少し疲れたので、部屋で休ませてもらいます」

誰にともなく告げると広間を出ていく。
そんな山南さんの後ろ姿はいつもより小さく見えた。
広間には重苦しい空気が流れる。










 
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