さようならと……(長編)
□秘密
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“山南さんが怪我をした”
その知らせが入ったのは突然だった。
「呉服商へ押し入った浪士と斬り合いになった折、怪我をしてしまったようだ」
井上さんは土方さんから届いたであろう文に目を落とすと、重い口調で事のあらましを告げた。
その声は静寂な広間に響いた気がする。
土方と総悟も回りと同じく、顔をしかませた。
「詳しいことは分からないが、斬られたのは左腕とのことだ、命に別状はないらしい」
「良かった……!」
井上さんの言葉に安堵した千鶴の一言に、いち早く反応したのは土方だった。
「良くねぇよ」
凛とした声が響く。
隣で総悟が下剤を入れてるのも気づかないほど、真剣な顔をしている。
「えっ………どうして?」
「刀は片腕で容易に扱えるものではない、最悪、山南さんは二度と真剣を振るえまい」
斎藤の言葉に千鶴は息を飲んだ。
“刀を振るえない”
それは剣士としての死。
命が助かったところで刀を振るえないのは、剣士にとっては死ぬことより怖いことだろう。