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□Two tiny hands
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Two tiny hands
【訳】二つの小さな手


マスターコースの寮からスタジオへ向かう途中、ボクの隣を歩くハルカはしきりに小さな手に息を吹きかけながらこすり合わせていた。


「…寒そうだね」
「はい…しかも今日は一段と風が冷たいです…」
「だったら手袋したらいいのに。耳あてとマフラーはしていて、どうして手袋はしていないの?」
「えと…その…今朝寝坊して慌てて家を出たので…忘れてしまいました」


どこがバツの悪そうな顔をするハルカにボクは小さくため息をついて。


「はぁ……どうして寝坊するようなことになったのかなんて、聞かなくてもわかるから聞かないけどさ」
「すみません…」
「別に謝ってほしいわけじゃないんだけど…まったく…ほら、手」


あたりを見回したボクは誰もいないことを確認して、ハルカに手を差し出すと、ボクの行動に理解できないのか彼女が手とボクを交互に見てきた。


「あの…?」
「いいからさっさと手を出してくれる?」
「は、はい!?」


そう急かせば慌ててボクの手に彼女が手を乗せてきたので貝殻繋ぎをすると、ハルカの顔が一気に茹蛸のように真っ赤になった。


「こうすれば、少しは暖かいでしょ」
「あああああああ藍くん!?こ、ここここここ外です!」
「…【あ】と【こ】が多い。そんなの当然知っているよ…っていうかこのやりとり毎回しているよね」
「だって…誰かに見られたら…!」
「誰もいないことなんてとっくに確認済みだよ。…そんなにボクと手を繋ぐのが嫌なら振りほどけばいいでしょ。振りほどけるなら…の話だけど」


まぁ、ハルカがボクの手を振りほどかないことを知っているからわざとそんな言い方をしたんだけどね?


「い、嫌とかそういうんじゃ…」
「それとも、ボクはロボだから…無機質で冷たい?」


立ち止まり少しだけ伏し目がちに肩を落として見せれば…


「そんなことないです!とても暖かいです!」


首をブンブンと振るハルカはもう片方の手と繋いでいる手でボクの手を包み込んだ。


「君の手…ボクより全然小さいよね」
「それは藍くんが男の子だからですよ」
「男の子って…確かにボクは君より年下だけど、君にそう言われるとなんか…ムカつく」
「ごめんなさい、男の人、でしたね」
「分かってくれればいいよ。でも、この小さな手で色々な音を生み出しているんだよね。まだまだ未熟で、原石の【げ】にも満たないくらいだけど……いつか大きく成長する可能性を秘めている手」


ボクの手を挟んでいるハルカの手にボクはそっと息を吹きかけてあげた。
少しでも、彼女の手が温かくなるように。


「…最初はデビューできる可能性はないに等しいなんて言われましたけどね」


そんなボクの行為が嬉しかったのか満面の笑みを彼女は浮かべていて。


「確かに最初はね。けど、人間は日々進化するんだということをマスターコースの日々で学んだよ」
「それじゃあ私、もっと進化して…藍くんにたくさん歌ってもらえるような曲を作ります!」
「当たり前でしょ。君はボク専属の作曲家なんだからさ。今更君以外の曲を歌うつもりはないし…でも、今のままじゃまだまだ歌うに値しないけどね」
「頑張ります…!」
「うん。で、頑張ろうとしている矢先に風邪を引かれたら元も子もないから、スタジオについたら温かいカフェオレ奢ってあげる。感謝してよね」
「はい!」


そうしてボク達は貝殻繋ぎのままスタジオへと向かった。


本当は…君と手を繋ぎたくて口実を探していたのは秘密、だよ?





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