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□藍と渋谷友千香(拍手小話)
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「君さ、そのレベルの歌唱力でよくアイドル目指そうなんて思えるね。まぁ…顔は悪くないし、端役としてなら女優でもいけるんじゃない。主役にはなれないタイプだけど」


顔はお人形のようにめちゃくちゃ可愛いけど無表情で言っていることが超絶可愛くないこの人は、美風藍……先輩。
年はアタシより下だけど、芸歴はアッチの方が長いからアタシが後輩なわけ。

で、どうしてその美風先輩にボロクソに言われているかというと…
新人タレントのアタシに社長が、美風先輩と2時間ドラマのテーマソングを歌うように命令してきた。
作曲は、アタシの大親友で…美風先輩の秘密の恋人、七海春歌。

今日はそのレコーディングで、朝早くから始めてすでにお昼を過ぎている。
開始時から今まで美風先輩はまだ一回も歌っていなくて、ずっとアタシの歌にダメ出しをしていた。


「シャイニング早乙女も何考えているのか分からないよまったく。あぁ、ボクが君に合わせて歌ってあげるから、君は無駄なことしないでいいよ」


……ねぇ、春歌?
アンタ、コイツのどこがいいわけ?
顔!?顔なの!?
アンタのこと大事に思ってくれてる人周りに…えーと…ST☆RISHの6人と、先輩3人はいるよ!?


「…君にハルカとのことでどうこう思われてもいいけど、今はコッチに集中してよね。ボク、君と違って今現在アイドルで暇じゃないからさ」
「ぇえ!?す、すみません…(な、なんで!?アタシ声に出してた!?)」
「顔に出ているよ。そんなんじゃ女優としても怪しいんじゃないの。…もう一回」


うぅううう!!むかつく!!
…ボロクソ言うだけの実力…この人には十分あるからなおさら!
でもどうしたら美風先輩を納得させられるの!?
何回歌ってもつかめないんだけど…


その時、スタジオの扉があいた。


「おはようございます」


姿を現したのはアタシの親友、春歌。
あ、確か今日顔だすって昨日メールで言ってたっけ。
朝からずっとみっちり歌ってて忘れてた。


「…おはよう、ハルカ」
「美風先輩、おはようございます」


美風先輩は今までずっと座っていたのに、春歌が入ってきた瞬間立ち上がって春歌のところに行った。
そして春歌はブースにいるアタシに手を軽く振ってくれた。


「美風先輩、レコーディングは順調ですか?」
「なんとか形にはなってきたところ。これからボクが合わせて仕上げていくよ」


え、うそ!
春歌が来る直前、【…もう一回(ややため息交じり)】って言っていたのに!?
なにこの変わりよう!
しかも心なしか春歌見て口元綻んでるし!?

美風先輩はそう言ってアタシがいるブースまで入ってきた。
綻んでいた口元は入ってきたときには引き締まっていて…


「トモチカ、一発で決めるよ。ボクの足を引っ張らないでよね」
「…は…はい」

あの、背後からものすんご〜いピリピリオーラがでてるんですけど…先輩。
春歌の方に視線を向けると『トモちゃん頑張って!』って笑顔でうなずいている。


…このオーラは春歌には見えない仕様なの?


「それじゃぁ、ハルカ、曲」
「はい!」


なるほど…春歌には微笑むんだ!
…ってアタシにはずっと無表情の極みだったのに!!!

そして曲が流れて、今までで一番うまく歌えた気がする。
アタシが足を引っ張るどころか美風先輩がアタシに合わせてフォローしてくれたからすごく歌いやすかった。

実力の差を見せつけられたってカンジ…悔しいけど、これが現実。やっぱ美風先輩…凄い。


「…まぁ、いいんじゃない。人に聞かせられるレベルにはなったね」


…あくまで先輩の実力ね。人としてはどうかと思うけど!…って、それってOKってこと!?


「美風先輩…!それって!」
「あとはボクが編集するから。トモチカ、手を出して」
「え?」
「聞こえなかったの?手を出して」
「あ、はい」


…なんだろう?アタシは手のひらを上にして先輩へと伸ばした。
そしてその手に置かれたものは。


「キャンディー?」
「そう、ローヤルゼリーとビタミンCが入っているのど飴。今日ずっと歌いっ放しだったからね」
「ありがとう、ございま…す」


あれ?優しい?今までむかついてごめんなさいっ


「歌はいまいち、女優としても華がない、おまけに肌が荒れているトモチカが声でなくなったら仕事なくなるでしょ」


前言撤回。一言二言余計です、美風先輩。
やっぱりムカつく!


「……もしそうなったらハルカが心配するし…そんな顔見たくないから…」
「え?」
「なんでもない」
「でも…」
「いいから早く帰って喉休めなよ」
「は、はい」


アタシは先輩と春歌に挨拶をして帰路についた。


でも、ばっちり聞いちゃいましたよ?
春歌の心配する顔を見たくなくて、アタシに気を使ってくれたんですよね?


春歌限定で意外な一面を見せまくりな先輩がちょっと可愛く思えちゃった。

ちょっとだけ、ね!

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