BASネタバレ有
□君のぬくもりに触れたくて(後1)
1ページ/1ページ
「……よし」
ハルカの部屋の前まで走ってきたボクは、大して乱れてもいない息を整えるかのように、一息ついてからインターフォンを鳴らした。
「…不在?それとも、寝ているのかな」
鳴らして数秒待ってみたけれど、何の反応も返ってこなかったのでドアノブに手をかけてみるとガチャリと扉が開いた。
「出かけていて不在にしろ、家にいるにしろどちらにしても鍵が開いていたら鍵の意味なんてないでしょ…まったく」
これは後でキツく注意しないといけないな、なんてことを考えながらボクは家の中に足を踏み入れた。
「ハルカ?いないの?」
玄関先で少し声を大きめに出してみたけれど、反応はなかった。
彼女の事だ、きっと慌てて家を出たために鍵をかけ忘れたのだろう。
ボクが合鍵を持っていたなら、鍵を閉めて出直すこともできるけど…生憎合鍵はもっていない。
このままにするわけにもいかないから、家の中で待たせてもらおうかな。
幸い、今日と明日はオフで時間には余裕があるしね。
「…上がらせてもらうからね」
誰もいないけど、一応そう言っておく。
靴を脱ぎ来客用のスリッパに履き替えリビングに行くと、ソファの上に横たわっているハルカが目に入った。
「…!ハルカ…!?」
まさか体調不良で倒れてしまったのだろうか?
ボクはダミーの鼓動が早まるのを感じながら、急いで彼女の顔色などを伺うべく近づいた。
…見た所、若干目の下にクマは見られるものの心拍数、呼吸音共に正常。その上、
「すぅ…すぅ…」
規則正しい寝息。
データをはじき出すまでもなく出た結果は【ソファの上で寝ている】というものだった。
「はぁ…心配させないでよね。というか、自分の家なんだからベッドで寝たらいいのに」
ボクは癖になりつつあるため息をつきながら床に腰を下ろし、ソファに頬杖をついてハルカの鼻先を指で軽く押した。
「ぅ…ん」
彼女が小さく眉を顰めたので、起こしてしまったかなと思ったけど、すぐさま気持ちよさそうな寝息が再び聞こえてきたので少し安堵して。
「どうせまた寝食わすれて作曲に没頭していたんでしょ」
そう言いながらハルカの寝顔を見続けるボクの口元が緩んでいたことに気付いて、慌てて彼女から顔をそむけてしまった。
…寝ているハルカに今のボクのだらしない顔が見られたわけじゃないのに何をしているんだろうか。
「あれ、これ…」
視線をそむけた先に目に入ったのは、グレーのボクのジャケットだった。
先日夜桜を見に行ったとき、まだ春先だというのに薄着で来たハルカに貸したジャケット。
返すのは今度でいいと言ったけど、どうして今、彼女がそれを抱きしめて眠っているのだろうか。
そうか、リビングを見回したところ掛けられるものはなさそうだし、寝室の行くのが億劫で掛けて眠ってしまったのかもしれないね。
「このまま可愛い寝顔を見ていたいけど、風邪引いちゃうからベッドに行こう?」
彼女を起こさないようにしながら、背中と膝裏に手を入れて持ち上げる。
一瞬、ボクのジャケットが彼女の手から滑り落ちそうになった。けれどハルカはギュッと握り、まるで宝物かのようにそれを強く抱きしめ直した。
「ボクと会えなくて寂しくて抱きしめていてくれたら…嬉しいんだけど」
そう言ってボクはおでこにそっとキスを落とし、彼女の寝室へと向かった。
続