BASネタバレ有

□君のぬくもりに触れたくて(中)
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Side-美風 藍


「遅い」
「ちょっと、アイアイ!首根っこひっぱらないで!!どぁああああああぐるじぃぃぃいい」


6日目の撮影は、日が昇る前に始まり午前6時には終わったので、そのまま現地解散となった。
ボクたち4人は新幹線に乗るべく歩いているんだけど、レイジとカミュの歩行速度があり得ないほどに遅い。


「レイジの速度じゃボクの帰宅予定時刻に遅れるでしょ。それに酒臭い。喋らないで…というか息しないで」
「息しないとれいちゃん死んじゃうから!って〜アイドルはお酒臭くなんかないぞっ☆きゃぴっ」
「…昨日美少年っていう日本酒を沢山飲んでいたのは、美少年にでも憧れているからなの?まぁ、レイジはすでに【少年】という年齢には当てはまらないけど」
「心は永遠の19歳だぞっ」
「………」
「だからアイアイ?無視はやめよう無視は!」
「貴様美風…!俺のバームクーヘンを返せ!それは1日8個しか生産されない幻のバームクーヘンなのだぞ」
「返してほしかったら歩行速度を上げることだね、カミュ。それに放っておいたらの土地のスイーツ全制覇とか理解に苦しむこと言い出すでしょ」
「貴様なぜ俺の考えていることが分かった…!」
「とにかく、このままの速度だとこのバームクーヘンはボクがもらうからね。…そしたらハルカにあげよう。彼女も甘いの好きだし…」


レイジの後ろ首をひっぱったままズルズル歩きながらカミュから奪い取ったバームクーヘンをカミュにちらつかせる。カミュはお陰で少し速度の上昇がみられるね、…でも、スイーツに釣られるのはどうかと思うけど。


「そ、そういえばアイアイ!」
「何」
「ランランの姿が見えない気がするんだけど…ぐあああ」


ボクに引っ張られるレイジは何とかボクの注意を引いて解放されたいみたいだけど、そうしたら速度低下につながるから解放してあげないよ。


「ランマルならすでにホームで駅弁を買い漁っているよ」


ボク達が進む先にいたのは、蕎麦屋の出前かっていうくらい駅弁を積み重ねて持っているランマルだった。


「おいてめぇら遅ぇぞ」


積み重ねすぎてランマルの顔が認識できないんだけど…まぁいいか。


「ボクが遅いんじゃない、この二人が絶望的に遅いの」


レイジとカミュが何か文句を言っていたけど、丁度その時に新幹線が到着したので、ボクは無視してそれに乗り込んだ。








「にしてもアイアイ〜?やけに今日は帰宅を急ぐじゃな〜い?さてはさては早く後輩ちゃんに会いたいんだね〜!?」

新幹線を降りカミュ、ランマルと別れたボクとレイジは部屋に向かって歩いていた。


「別に。時間を有効活用したいだけだよ。オフなんてそうそうないし」
「とかなんといっちゃって〜昨日からず〜〜〜〜〜っと心ここに非ずでソワソワしてるじゃん」
「ウザ…」


ニヤニヤしながら指でボクの頬をつつくのやめてよね。
それに嘘はついていないよ。だって、時間があればあるほどハルカと一緒にいられる時間が増えるんだから。


「ふふーん、ま、一週間も離れてたしね☆気持ちは分からなくはないよっ!…っとぼくちんこっちだから!またね〜アイアイ!」
「うん、また」


手をヒラヒラふってボクに別れを告げた矢先、レイジが電柱に顔面をぶつけていた。
顔はアイドルの命なのに自覚が足りてないんじゃない?…ま、いいか、レイジだし。

それからボクはふぅと息をつくと、ハルカの部屋に先ほどより幾分速度を速めて向かった。

時刻は午前8時。

君は起きて朝食を食べているのかな?だとしたらボクの突然の来訪に驚くよね。
それともまだ眠っている?
あぁ、また徹夜してフラフラになっていないかな…

そんなことを考えながら。

やがて小走りになり、ボクは気がついたら全力で駆けていた。



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