BASネタバレ有

□君のぬくもりに触れたくて(中)
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Side-七海春歌


チュンチュン―――


「え…?」


鳥の囀りが耳に入ってきたので壁に掛けられている時計に目を向けると、長針が6の所にさしかかろうとしていた。


「えっと確か昨日の午前中から作業を始めて…夜に鳥は鳴かないから…まさか朝?」


そういえばカーテンから差し込む日差しが目に染みてチカチカします。そっか私…休憩も取らずにずっと作曲をしていたんだ…。

今、私が作っている曲は藍くんの新曲。

いっぱい藍くんへの想いを込めて作ろうと思って取り掛かったら、どんどん曲のアイディアが浮かんできて、思うままに作っていたら凄い量のデモになってしまった。
一週間とはいえ離れている間の寂しさや、もうすぐ会えるという期待、お休みの時に二人で過ごす幸せな時間、それから…藍くんの事が大好きだという私の気持ち。
それらすべてを曲に詰め込みたくて…寝食を忘れて没頭していたみたいです。


「う〜ん、さすがに少し仮眠取ろうかな…」


パソコンチェアに座ったまま伸びをした私は、リビングへと向かうべく立ち上がった。っとその前に、カレンダーにチェックつけよう。


「仮眠から目が覚めた時に、藍くんが隣にいてくれたらいいのに…」


カレンダーにチェックしながら、今日がまだ6日目である事実に寂しさを覚えて、とてつもなく会いたい衝動に駆られた。


「会いたいよ…藍くん」


藍くんに早く抱きしめてほしい…それから、キスもしたい。
会えないとわかっている時ほど恋しくなり、藍くんへの想いが募る。
曲作りから離れると私はこんなにも弱いんだと、改めて実感させられる。


「あ、そうだ…藍くんのジャケット借りたままでした」


リビングに向かった私は、ハンガーに掛けられている藍くんのグレーのジャケットを手に取った。
それは以前、夜桜見物に藍くんと二人でお出かけしたときに寒がっていた私に藍くんがかけてくれたジャケット。今度会った時でいいよ、と藍くんが仰ったのでまだ返せていなくて。


「藍くん…」


そのジャケットを無意識のうちに抱きしめると、藍くんの香りがまだ残っていて…抱きしめられている感覚に陥る。
そして花のように優しくて落ち着いた香りは繊細な藍くんにとても似合っていて、寂しさに沈んでいた私の心がすっと和らぐのを感じた。


「抱きしめたまま眠れば少しは近くに感じられるかな」


今はまだ遠い地でお仕事しているであろう藍くんを。


「皺にならないようにすれば大丈夫だよね」


リビングのソファに横になった私は、藍くんのジャケットをそっと胸に抱きしめるとすぐさま睡魔が訪れ夢の中へと旅立った。


夢の中で藍くんに会えますように、と祈りながら。
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