BASネタバレ有

□桜舞う夜
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満月に照らされた桜の木々からヒラヒラと無数の花びらが舞い落ちる。
愛しい彼女と手を繋ぎ歩く道には、桜の絨毯が延々と続いていて。
そんなハルカに視線を向けると、忙しなくあたりを見回しては小さく微笑んでいた。


「綺麗ですね、先輩」
「うん。そうだね…って花びら、ついているよ」


ハルカの髪の毛に付いた花びらを一枚取ってあげると、少し恥ずかしそうに『ありがとうございます』と言った。


「先輩とこうやって夜桜を見れるなんて思っていませんでした。…先輩はもう国民的アイドルですし…今日も本当に大丈夫なのでしょうか」
「平気だよ。こうして髪を下ろして、黒縁眼鏡をすれば誰にも気づかれないし。それに、アイドルの美風藍がまさかここにいるだなんて誰も思わないしね」


しかもここは夜だというのにカップルや花見客でにぎわっていて、腰に腕を回しても堂々としていられる。
普段、ハルカとこうしてデートなんてする時間なんてないし、人目もあって中々できないからちょうどいいかも。


「ほら、せっかくの久々のデートなんだからもっとボクに寄り添って」
「せ、先輩…っ」
「はぁ…違うでしょ。ボクと二人きりの時は何て呼ぶか何度も教えたはずだよ。そんなことも忘れちゃったわけ?本当に8bitなんじゃない?君」
「はちびっ…?えと…あ、藍くん…」
「よくできました」


ご褒美と言わんばかりにグッとハルカの腰を抱き寄せ頬にキスをすると、戸惑いながらも嬉しそうな表情を浮かべた。


「ねぇハルカ。ボク今、幸せだよ」
「ふふ、どうしたんですかいきなり」
「可愛い彼女とこうして綺麗な桜を見ながらデートできている。普通の恋人達からしたら凄く自然の事なのかもしれないけれど、ボクにはすごく幸せなんだ」
「か、可愛いなんてそんなこと…」
「そうやってすーぐ赤くなって俯くところも何もかもが可愛い。大好きだよ」


俯く彼女の顎を掴んで上を向かせたボクはチュッと音を立てて唇にキスをした。


「…もう、ここ外ですよ」
「場所なんて関係ないよ。…ねぇ君は?君の気持ちを聞かせてよ」
「…こ、ここでですか?」
「うん。お願い…ダメ?」
「〜〜〜、私も…藍くんが大好きです」
「嬉しい、ありがとう。愛しているよ、ボクの可愛い彼女さん?というわけで…」
「きゃっ」


ハルカの腰を抱いたまま、人々が行き交う通路から一歩外れて、ひときわ大きい桜の木に隠れた。


「桜の木の下でキスしたら素敵な思い出になると思うんだ。ハルカもそう思わない?」


木に両手をつきハルカを閉じ込めればボクの体で彼女はすっぽりと隠れる。


「えぇと…素敵だとは思いますが…その…」
「君からシてほしいな」
「…そうくると思いました」


彼女と【そういう関係】になってからというもの、ボクは頻繁にキスをねだるようになっていた。ボクからももちろんするけれど、愛しいハルカからしてもらうキスは凄く気持ちがいい。何より触れ合う唇から彼女の想いが伝わってくる気がするから好き。

ハルカはボクの着ているショートトレンチの裾を握り、大きく潤んだ瞳を静かに閉じると、ゆっくり背伸びをしてボクの唇にキスをしてきた。
触れるだけのキスは少し物足りないし、ボクはいつももっと深いキスをしているけれど、今の彼女にはこれが精いっぱいだから許してあげることにする。


「ん…藍くん、来年も再来年もずっと一緒にお花見しましょうね」
「そうだね。いつかは彼女じゃなくてお嫁さんになっているのかもね。ま、その時はシャイニングに戸籍をねつ造してもらえばいいか」
「ふふ、社長なら簡単にやってのけてしまいそうですね。…あっ」


ふと急にボクの頭に手を伸ばしたハルカがクスクスと笑っていた。一体何を見つけたんだろう?


「藍くんの髪の毛にも桜の花びらがついていましたよ。…先輩の髪色と桜の花びらの色がとても合っていて綺麗で…くしゅん」
「あぁ、春先とはいえ夜はまだ冷えるよね。気付かなくてごめんね」


小さく身震いした彼女をゆっくりと抱きしめると彼女もボクの背中に腕を回してきた。


「大丈夫です。私が寒い時はいつも藍くんがこうしてくれますから」
「うん、そうだね。暑くてもこうするけど」
「はい。いっぱいギュッてしてください」
「その言葉、後になっても取り消しとかナシだからね」
「どーんとこいっ!です!」


そうしてボク達は桜の花びらが舞い散る中、しばらく抱きしめあっていた。


終。

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