gift&request&other...

□affettuoso
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「やぁ、後輩ちゃん」
「寿先輩、お疲れ様です」
「おつかれちゃーん!」


事務所で藍くんの仕事が終わるのを待っていると、寿先輩が事務所に入ってきて私に声をかけてくれた。


「どうしたの?打ち合わせまでの時間つぶし?」
「いえ、美風先輩を待っているんです」
「ヒュ〜、アチチなLOVEだね。青春だねぇ〜まじでまじでまじで〜胸が〜ズキューンさぁってか!」
「は、はぁ…」


相変わらず先輩は元気だなぁ…時々そのテンションの高さについていけずに困るけど。


「ねね、後輩ちゃん!レンレンのバースデーとバレンタインも終わって、次のイベントと言えば何でしょう?」
「美風先輩のお誕生日です!」
「ピンポーン!間髪入れずに答えたね!さすがアイアイのハニー」


当然です!大好きで大切な人のバースデー、忘れるわけがありません!
で、でも…ハニーって言われると凄く恥ずかしいから止めてほしいかも…。


「でさぁ、何をプレゼントするか決めた?」
「それが…まだ…」
「んー?あっという間にバースデーだぞぅ」
「そう、なんですけど…」


お友達に贈るプレゼントを考えるのはそこまで大変じゃないんだけど…か、彼氏に送るとなると何を贈っていいのかよく分からない。
そもそも男の人にプレゼント自体…昔、母と二人で父への贈り物を選んで以来だし。
藍くんはシンプルで機能的なものを好むみたいだから余計迷っちゃって…。


「ぼくからのアドバイスあるんだけど知りたい?まぁアドバイスっていうより、これされると男は喜ぶよ〜って事なんだけどさ」
「それは美風先輩も喜んでいただけるのでしょうか…?」
「もちのろん!むしろ彼女にされて喜ばない男はいないね!断言しよう!」


藍くんが喜ぶという貴重なアドバイスを聞けるのなら、ぜひとも聞きたいです!


「じゃぁさ、ちょ〜っと耳を貸して」
「はい」
「〜〜〜、〜〜〜〜、〜〜〜」
「っ!えぇ!?」


寿先輩が私の耳元に唇を寄せて低く優しい声で言った言葉に、私は一気に体中の体温が上がるのを感じた。
そして耳を押さえ先輩から勢いよく距離を取ると…丁度その時、事務所の扉があいた。


「…何しているの、二人とも」


入口の方にゆっくりと視線を向けると、腕を組んで立っている藍くんがこちらをまっすぐ見つめていた。


「アイアイ、遅かったね〜!後輩ちゃん、待ちくたびれているよ」
「仕方ないでしょ。仕事だったんだから。ていうか君、どうして耳を押さえて顔真っ赤なわけ?」
「え…、あの、何でもないです」


藍くんの視線は全てを見通しているような気がしたので、私は藍くんから顔をそむけてしまった。


「何でもないって言葉、信じられると思う?レイジと二人きりだった君が顔を真っ赤にしている。何かあったと考えるのが普通だと思うけど」
「ほんと…なんでも…」
「あー、うん。後輩ちゃんに呼びかけてもボーっとしたままだから、ぼくちんが寂しくて耳にフーってしただけだよ」


私が上手くかわせないことを察知したのか、寿先輩は機転を利かせてくれた。


「レイジの言っていることは本当?」


ツカツカと傍まで近づいてきた藍くんは私の顔を覗きこんだ。


「はい!!」


寿先輩に言われたことをまさか今藍くんにいう訳にもいかないので、思い切り首を縦に振って寿先輩に合わせる。


「そう、ならいいけど」


ほ…、どうやら藍くんは寿先輩の言葉を信じてくれたみたい…良かった。


「うーんと、それじゃぼくは次の仕事があるからまったねーん」
「あ、はい。お疲れ様でした」
「アイアイまったねー」
「……」
「無視はだめだぞ〜無視は!」
「…レイジ、お疲れ様!」
「……そのあからさまな営業スマイルをされるくらいなら、無視された方がまだマシな気がするのは、ぼくちんの気のせいかな…クスン」


しゅん、と肩を落とした寿先輩はそのまま事務所を出て行ってしまった。


「はぁ…本当、いつもウルサイよね、彼」


寿先輩が出て行った扉にチラリと視線を送った藍くんは小さくため息をついていた。


「でも、先輩のその明るさは憧れです。先輩がいるだけでその場の雰囲気がガラリと変わりますし」
「まぁ確かに。でもボク、君がレイジみたいになったらイヤだよ」
「ど、どうしてですか?」
「だってさ…」
「…きゃっ…」


ふいに私の腰を抱き寄せた藍くんは私の耳元に唇を近づけて、フッと息を吹きかけた。


「あぅ…っ」
「こういうことをしても…そういう反応しなそうだし」
「あの…、藍くん…っ」
「…何?」
「耳に息が…かかって…ひゃんっ」
「ねぇ…、レイジにもそんな声聞かせたの?」


その綺麗な声で低く甘く囁かれると…こ、腰が抜けそう…なんですけど…!


「ち、ちが…」
「ふぅん…その割にはさっきみたいに真っ赤だけど」


違う…私が赤くなったのは、耳に息を吹きかけられたからではなく、藍くんにしてあげたら喜ぶということを教えてもらったからなんです。
そして、その内容があまりにも恥ずかしくて真っ赤になってしまっただけで…!
でも今言う訳にはいきません…はずかしいけれど、誕生日に実践して喜んでもらうために。


「それは…その…」
「君がレイジにでもそんな反応したなんてね…本当はボクのことなんて好きじゃなかったりして」
「そんなことない…!!私は藍くんだけが好きです!」
「どうだか。じゃあさ、それを証明して見せてみてよ」
「…え?」
「君がボクを好きだという証明だよ。簡単でしょ?」


しょ、証明って…一体どうすればいいんだろう?
おそるおそる藍くんを見上げると、綺麗なアイスブルーの瞳は私をしっかりと捉えている。
うぅ…何をしたら証明に……あ!もしかして、いつも藍くんからしてくれる…アレをしたらいいのかな?

私の腰を抱いたままでいる藍くんの首に腕を回して、瞳を閉じ、つま先立ちをする…そうすると届く藍くんの唇に私のソレを重ねた。


「…ん」


マシュマロのように柔らかい藍くんの唇に重なった瞬間、藍くんに後頭部を押さえられ激しいキスへと変わった。


「…ぅ…っ」
「っ…、…ハルカのくせに珍しいことするね」
「んっ…」


私の唇をペロリと舐めた藍くんは、そう言いながらも満足げな表情を浮かべていた。


「あの、証明は…できていましたか…?」
「どういうわけか君の唇から【スキ】という感情がたくさん伝わってきたよ」
「良かった。私、本当に藍くんが大好きなんです」
「【スキ】という感情は確かに伝わったけど、【ダイスキ】までは伝わっていないよ」
「え?」
「ねぇ、【ダイスキ】も証明してくれる?」


柔らかい笑みを浮かべている藍くんは私の方に顔をズイッと近づけてきて。
え、えと…それって…まさかキスより先とかそういう…こと!?
私たちにはまだ早い気が…!それにココ事務所で藍くんアイドルですし…で、でも…もうじきなのでしょうか…?分かりません。


「そ、それって…」
「…顔、今が一番真っ赤。ま、君が何を想像しているのか大体予想はつくけどね」
「あのですね…っ」
「でもさすがにココじゃ出来ないから寮に帰ろうか」


そう言うと藍くんは私の荷物を持ち手を引いて事務所を出ようと歩き出した。


「ここじゃ出来ないって、何がですか…?」
「分かってるくせに。君が頭の中で考えていたことだよ。ボクの口から言わせたいなら言ってあげるけど?」


私の方を振り返った藍くんは悪戯っぽく微笑んで。


「いえ、言わなくていいです…!というか…えぇ、あの、その…心の準備が…」
「そうだ。今日はついでに駅前の限定クッキーシューを買って帰ろう」


私の言葉なんてまるで聞いていないかのように歩き出す藍くんの足取りは、いつもより少しだけ軽やかに見えたのは気のせいかな。
…て、ちょっと待って!このまま帰ったら私どうなっちゃうの!?


「何真に受けているの...冗談に決まっているでしょ。それにキスだけで真っ赤になる君にはまだ早いしね」


か、からかわれたの…?
…というか今からこんな調子で、私は寿先輩のアドバイスを無事に実践することができるのかな、私。





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