A

□あまい香り
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ハルカは今じゃかけがえのないボクの大切で大好きな人。


「ハルカ」
「はい、なんですか?美風先輩」
「あのさ、二人の時は先輩はやめてっていつも言っているでしょ」
「ですがここ事務所ですし…」
「今は誰もいないよ」
「そうですけど、いつも誰が見てるか分からないんだから行動や言動には気を付けるようにって仰るじゃないですか」
「今日は特別。ねぇ、名前で呼んで」
「分かりました…それじゃぁ、藍くん」


とある日のシャイニング事務所にて、ボクとハルカは新曲の打ち合わせをしていた。
ボクの隣に座る彼女からは甘い香りがふんわり漂って来て、理性システムがゆっくり低下していくのを感じて。
…これは少し危険、かも。


「それから、もっと近くにきて」
「きゃっ」


いつ誰が来るか分からない事務所で、ダメだと思いつつもハルカの腰に腕を回してグッと抱き寄せると、彼女は簡単にボクに寄り添う形となった。


「あ、あの…、藍くん?」
「何?」


普段事務所でそんな行動をとらないボクに、彼女は戸惑ったのかおそるおそるボクの顔を見上げてきた。
そんな心配そうに見つめないでよ、君をどうにかしたくなっちゃうからさ。


「何か嫌なことでもあったんですか?」
「どうして?」
「い、いえ…普段の藍くんは外じゃこういうことしてこないので何かあったのかな…と」
「なるほど。君なりに分析したってわけだ」
「えぇと…」


言い淀んだハルカは俯こうとしていたけれど、その前にボクが腰に回している腕とは逆の手で頬を撫で顎を掴み、それを阻止する。


「何もなくはない…かな」


ハルカはボクが見つめるとすぐに視線をそらしてしまう。
ボクを見てほしくて見つめているのに、恥ずかしいと言って中々視線を合わせてくれないんだ。
案の定彼女、顔動かせないから視線を逸らしたよ。


「何があったんです…?」
「ハルカに誘惑されたって言ったら君はどんな反応を示すのかな」
「え?」
「ほーら、視線を逸らさないでボクをちゃんと見て」
「だ、だって藍くん、顔近すぎです…っ」


そう、ボクは今彼女の鼻に触れそうな程顔を近づけている。


「君から甘い香りがして、ボクの理性システムがダウンしかけている。つまり、ボクは今君に誘惑されて理性のタガが外れそうになっているんだ」
「そ、そう言われましても…」


更に顔を近づけて、唇が触れるギリギリ直前ですんどめすると、ハルカはギュッと目を閉じてしまって。


「目を開けて」
「う〜、いやです〜…」


目を閉じプルプル震えながらハルカは小さく拒絶したんだけど、それ、むしろ誘っているようにしか見えないよ。


「目開けないと腰がたたなくなるようなキス、しちゃうけどいい?」
「…それは少し困ります…でも」


そう言いながらハルカはゆっくりと目を開けてボクを見て。


「ここじゃ腰が立たなくなるのは帰れなくなるので困りますけど…藍くんのお部屋だったら…んっ」
「ん…、バカ…」


ハルカが何を言おうとしたのか理解したボクは無意識のうちにキスで口を塞いでいた。
そんな可愛いこと言われて我慢できるほど、ボクはできたロボじゃないみたい。
それに今ので完全に理性システム停止しちゃったし。


「責任、とってよね」
「へ?あ、あの…、んぅ……っ」


ハルカの呼吸すら貪るように深く激しいキスをしながら、ソファにハルカを横たえると彼女はボクの背中に腕を回してしがみついてきた。


「ボクを誘惑した、責任…だよ」


ボクはつとめて低い声で甘く言い、うっすらと涙が浮かんで潤んだハルカの目元にキスを降らせると、彼女は柔らかく微笑んで【分かりました】と小さく答えた。






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