A

□You are my Valentine.U
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「藍くん、遅いな…珍しくレコーディング長引いてるのかな?」


藍くんの部屋で帰りを待つ私は無意識のうちに携帯の時計と、壁に掛けられている時計を交互に見ていた。

藍くんが帰ってきたときに驚かせたいから、ガトーショコラはカバンに隠してあるし、コーヒーのセットも準備万端!
食べ物を必要としない藍くんだけど、こういうイベントごとは興味があると言って付き合ってくれるからきっと口にしてくれると思う。
……もし、もしも食べないって言われたら…私一人で食べるしだいじょう…ぶ!

不安になってどうするの、春歌!

その時…玄関のドアが開いたと同時にドサドサって何かを置く音がした。
何か買って帰ってきたのかな?たまに限定スイーツを買ってくることはあるけど…

その音の正体を確かめたくて私は玄関へと小走りで向かった。


「ふぅ…結構な量…」
「藍くん!お帰りなさ…」


玄関先に置かれていたのはカラフルな小さな袋がたくさん。
これは…その…鈍感な私でもさすがに分かる。バレンタイン…のプレゼント。
そっか、今日藍くんに渡すのは何も私だけじゃ…ないよね。


「ただいま。予定していた帰宅時間を大幅に過ぎちゃったね」
「い、いえ…レ、レコーディングお疲れ様です…」


他の女の子からのプレゼントなんて見たくないと心では思っていても、視線を逸らすことができなかった。
どうか…プレゼントをもらっていたから帰りが遅くなった、なんてお願いだから言わないで…


「…レコーディング自体は大したことかったんだけど入口で…」
「あのっ!お疲れでしょうからとりあえず休憩しませんか?」


…藍くんの言葉を最後まで聞きたくなくて途中で遮っちゃった…変に思われたかな?


「……そうだね。ちょっと充電しないと今夜のレンのバースデーパーティーまでもたないかも」


良かった…チラリと私の方を見ただけで特に怪しまれていないみたい。
藍くんは脱いだ靴をキッチリと揃え、玄関先に置いたプレゼントを再び抱えるとリビングへと向かった。途中途中落としたプレゼントは私が拾っていく形で。

そしてリビングのテーブルにまたもやドサドサとプレゼントを置くと、近くにあった藍くん専用のノートパソコンの電源を入れ、腕から伸びたUSBを差し込んだ。

丁寧とは言えないプレゼントの扱いのせいか、大半は袋から中身が出てしまっていて、嫌でも目に入ってしまう。
どれも可愛らしくラッピングが施され…ほとんどにメッセージカードも同封されていた。
きっと、藍くんへの想いを綴っているんだろうな…そう思うと複雑。

私はふとカバンの中のガトーショコラが入っている箱とテーブル上のプレゼントを見比べた。
女の子らしいラッピングがされた数々の箱は中身も何となくだけど、すごいんじゃないかって想像しちゃう。それに比べたら私のなんて…恥ずかしくて出せないかな…


「これ…どうしたらいいと思う?」
「えっ」
「このプレゼント。レコーディングの帰りに待ち伏せされて…受け取るか考えていたらレイジに表むきだけでも受け取るべきって言われて受け取ったはいいんだけど…」


藍くんはそういうと深いため息をついて。


「はぁ…手作りなんて何が入っているか分からないんだからそう簡単に口にするわけがないのにね」


その一言でカバンの中のガトーショコラは貰い手を失い、私のバレンタインは渡す前に終わりを告げた。





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