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□ココアより甘いkiss
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藍くんの部屋で帰りを待ちながら仕事をしていたある日。
ココアを藍くんが買って帰ってきたので受け取ってふぅふぅと冷ましていると、藍くんは私の顔をじっと見つめてこう言ってきた。


「ねぇハルカ。耳かきしてくれない?」
「ふぅふぅ…いいですよ。耳かきですね!……て…え!?耳かき!?あつっ」


その言葉に体がビクンと跳ねてしまい、その衝動でココアが少し私の手にかかってしまった。
ココア自体は熱湯ではないので物凄く熱いというわけではないけどかかったことにも私は驚いて。


「慌てすぎ」
「す、すみませ…ん」


はぁ、と藍くんにため息をつかれてしまった。
藍くんは基本動じない。人とは違うからかもしれないけれど、これじゃどっちが年上か分からないよね…。
私は両手でギュッとコップを持ち、まだ半分以上残っているココアを見つめた。


「まさかそのままにするつもり?」
「…?何がですか?」
「……君は自分に無頓着すぎるよ」


言っている意味がよく理解できないでいた私の手からコップを取り上げテーブルの上に置くと、藍くんは私の手を引いてキッチンへと向かい流水を出してそこにココアのかかった部分をあてた。


「だ、大丈夫ですよ、これくらい…っ」
「どこが大丈夫なの?赤くなっているけど」


確かに少し赤くはなっているけど痛みはほとんどない。その…、藍くんの手が水に濡れてしまっていることの方が問題だと思った私はもう片方の手で藍くんの手を離そうと掴んだ。


「藍くん、手が濡れてしまっているので…私なら本当に平気ですから」
「だって君、こうでもしないと冷やさないでしょ」
「ちゃんと冷やしますから…じゃないと藍くんが…」
「少し黙ってて」
「ん…っ」


私の返事を待つことなく、藍くんは私の唇に自分のを重ねてきた。


「んぅ…、ふ…」


入り込んできた藍くんの舌に私の舌は絡め取られる。
…流水音で私たちの口づけの音がかき消されていてくれてよかった…。私、どうしてもあの音だけは恥ずかしくて堪らないの。
角度を変えるたびに深まる口づけに私は次第に頭がクラクラしてきて無意識に藍くんにしがみついていた。
そして藍くんもそんな私を支えようと腰に腕を回しきつく抱きしめてくれて。


「君を大人しくさせるためにはキスが一番だというデータに基づいたんだけど…ボクの方が夢中になっちゃったよ」


小さく笑いながら唇を離した藍くんは、水を止め、息を整えている私の頭をポンポンと撫でた。


「それに本来の目的から大きくそれてしまった」
「もくてき…?」
「耳かき」


そう言えば、そうでした。
藍くんに耳かきをしてくれって言われて驚いて火傷しちゃったんだった、私。


「まぁ今日は君怪我人だし、次回に持ち越しだね」
「ごめんなさい、でも…私が藍くんに耳かきを本当にするんですか?」
「嫌ならボクが君にしてあげてもいいけど…」


藍くんが私に耳かき…藍くんの膝枕とか真下から見上げられるとか滅多にないことだろうけど、力加減を間違えたら大変なことになるよね…興味半分怖さ半分って感じ。


「い、いえ。私が藍くんにやりますね」
「うん。よろしく」


柔らかい微笑みを浮かべた藍くんは私のおでこに音を立ててキスをすると「さ、仕事に戻ろう」と再び私の手を引いてリビングへと戻った。




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