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□藍と雪うさぎ
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ペチペチッ
ペタペタッ
事務所から寮へ帰る途中、ハルカが何やら一生懸命に雪を丸めている姿が見えた。
「こんなところで何をしているの」
ハルカの背後に立ち声をかけるとビクリと体を跳ねさせて顔だけボクの方を振り返った。
「藍く…先輩、今帰りですか?」
「そう。で、君はこの寒い中雪なんか丸めて何遊んでいるの?」
「えっと…雪うさぎをつくっているんです」
「雪うさぎ?」
「はいっ」
フワリとほほ笑みながらハルカは立ち上がると、ボクに製作途中のモノを見せてきた。
雪うさぎって確か雪を楕円形に丸めて南天の葉で耳を、実で目を飾るアレの事だよね。
知識はあったけど生ではコレが初めて見る…でもさ。
「これが…うさぎ?」
「そうです!」
自信満々にボクに差し出してきたけど…どこをどう見てもうさぎに見えない。
…どうしてウサギにはない角が目と目の間から生えているのかな…それに形は真ん丸で耳ないし。ちょっとしたホラーなんだけど。
「ねぇ、学生の時美術の成績悪かったでしょ」
「そんなことありませんよ。2でしたから」
「…2?5段階評価で2なら平均以下で十分悪い部類だけど」
「違いますよ〜、10段階評価です!」
「…それって5段階評価でいう1ってこと?」
「…2に近い1です!」
「同じでしょ。それに君、家事は得意なのに美術はダメとはね。なるほど…新しくデータを書き換える必要がある」
「そ、そんなデータ加えないで下さい…っ」
「ダーメ。ハルカの全データを採取するんだから」
「うぅ……」
ハルカ曰く雪うさぎを両手に乗せたまま何か必死にワタワタ慌てている。
「あの…これ可愛いくできたと思うんですけど…どうですか?」
「全然可愛くない」
「う〜ん…どこがダメなんでしょうか」
「……」
まさかとは思うけど、彼女にはコレが雪うさぎに見えるのかな?
まったく…ボク暇じゃないんだけどな。仕方ない、作ったことはないけど楕円形に丸めて耳と目を飾ればいいだけでしょ。どうしてそんな簡単なことができないのかな。
「ふぅ…ちょっとソレ貸して」
「え」
ハルカの手のひらから雪うさぎらしき物体を奪い取ったボクは角や目を外して雪だけの状態に戻して手で楕円形に形作ろうとした…けど。
グシャッ
と音とともに丸まっていた雪が崩れた。
「あれ…どうして?」
力加減の計算間違えたかな?
「…先輩、そんなに強く握りしめたら崩れちゃいますよ」
ボクの手をふわりと包んだハルカはそのままキュッと少しだけ力を入れてくる。
「これくらいの力で十分まとまりますよ」
「……知っているよ」
「先輩は四ノ宮さんみたいに少し力が強いのでそっとでいいんです」
そのままボクはハルカに手を包まれながら、うさぎのメインとなる体を作った。
「わぁ!さすがです、先輩!うさぎさんっぽくなりましたね」
「…当然でしょ、ボクを誰だと思っているの」
「そうでした。えーとそれじゃ次は目と耳とつ…」
「角はつけないからね」
「そう…ですか…」
少しだけ肩を落としてしょんぼりとして見せたけど、角がある雪うさぎって可愛いと思う?
「これでよし…と。目と耳の配置バランスも完璧」
「…なんだか共同作業みたいですね」
「みたい、じゃなくて君と作ったんだから共同作業でしょ」
無事に雪うさぎを作り終えたボク達は寮の玄関先にソレを置くことにした。
「そ、それもそうですね……はっくしゅっ」
「…雪うさぎ作って風邪ひいたなんてシャレにならないからさっさと部屋に入ろう」
「はい」
「それと、気が向いたから特別に君の好きなココアも入れてあげる」
ボクのその言葉を聞いて、嬉しそうにほほ笑みながらボクを見上げるハルカの肩を抱き寄せて部屋へと向かった。
たまには君と曲以外で何かを作るのも、悪くはないね。
終