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□藍と寿嶺二
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「アイア〜〜〜〜イ」
パソコンで検索中のボクの背後からレイジが抱き着いてきた。
「退いて」
「はぁ〜やっぱアイアイあったか〜い♪子供は体温高いって言うし…グフッ」
ボクの言葉を無視するレイジに裏拳を放つ。顔面ど真ん中にヒットしたけど、レイジだしいいことにしておく。
「顔はダメだって何度言えばわかるのさ〜〜!」
「何度言ってもボクに抱き着いてくるレイジに言われたくないね」
「んもー今日も絶好調に冷たいっ」
「…で、用件は何。レイジみたいに暇じゃないんだけど」
「アイアイさ、もうすぐ後輩ちゃんの…」
「バースデー」
「さすが後輩ちゃんの彼氏っ!!ボクが言わんとしたことを瞬時に予測するなんて!」
「当然でしょ」
どこから持ち出したのか激しくマラカスを振っている…本当うるさい。
「…パートナーの基本データを知っておくのは普通でしょ」
「またまた〜パートナーなんて言っちゃってさっ!このぉ〜」
あのさ…ボクの頬を指でつつくのやめてくれないかな。
はぁ……さっきから抱き着いたりマラカス振ったり…少しは落ち着いてほしいんだけど。もう25歳なんだからさ。
「で?そのハルカのバースデーがなんだっていうの」
「アイアイは後輩ちゃんに何をプレゼントするのかな〜〜〜って思ってさ」
レイジの『プレゼント』というキーワードにボクのキーボードを入力していた手が止まった。
「……どういうものを贈るの?」
人には生まれた日を祝う誕生日という記念日がある、ということは一応知識としてはある。
現にボクにも3月1日という誕生日が設定されているしね。
けれど実際に誰かの誕生日を祝うという経験をしたことがない。誕生日には祝い、プレゼントを贈るという慣習があることはネット検索していくうちに大体理解はできた。
だからボクもその慣習に従ってハルカに何かを贈ろうと思っているんだけど…
…何を贈ればいいのかサッパリわからない。【女性が喜ぶプレゼント】が載っているサイトは粗方見たし、データもすでに記憶済み。
ハルカの事だから何を贈っても喜びはするだろうけど…何となくそれじゃダメな気がする。
「どういうものって…そりゃ、後輩ちゃんが欲しがってるものをあげればいいと思うよ!彼女の事だから何でも喜びそうだけどねっ」
やっぱりレイジもそう思うんだ…。
「アイアイは後輩ちゃんの欲しいもの知らないの?」
…知っていたら今こうやって検索していないし、レイジに聞くわけないでしょ。
というか、ハルカは音楽の事しか頭にないから物欲があまりないみたいなんだよね。
「……」
「はは〜〜〜〜ん?さてはアイアイ、お困りだね?」
「な、何を言っているの。別に困ってなんかないし…」
「じゃぁ、そのパソコンの画面は何かなぁ〜?【彼氏がいる女性に聞いた!誕生日に欲しいプレゼントTOP10!】っていうサイトは〜?」
「ちょっ…、勝手に人のパソコン覗かないでよね」
「アイアイ超かわいい!!!お兄さん一肌脱いじゃう!!!」
レイジはそういうと言葉通り着ていたジャケットを脱いで大げさに放り投げた。
一肌脱ぐってそういう意味じゃないし、寒くないのかな…まぁ何とかは風邪ひかないって言うし、いいか。
「ボクに可愛いってとうとう頭腐った?」
「ん〜その冷たい言葉も照れ隠しなんだと思うと愛おしいっ」
「キモ…くだらないじゃれあいするつもりないから。早く出て行ってよね」
「ふ〜ん?知りたくないんだ?後輩ちゃんの欲しいモ・ノ」
「……」
そんなの、知りたいに決まってるでしょ…でも素直にレイジを頼りたくなんかない。
ボクにだってプライドってもんがあるんだから。
「アイアイが〜ちょ〜〜〜っと僕のお願い聞いてくれたら嶺ちゃん頑張って後輩ちゃんにリサーチしちゃうよ?」
「お願い…?」
「そ。一日、僕の事【お兄ちゃん】って呼んで、デレデレしてくれたらいいから!」
「…は?」
一瞬レイジの言葉の意味を理解できなかった。
「アイアイってばいつもつれないからさ〜甘々なアイアイも見てみたいし、可愛くお兄ちゃんって呼んでほしいなぁ」
「イヤ」
どうしてボクがレイジを兄呼ばわりして…その、甘えなきゃいけないわけ?
レイジの思考が理解不能なんだけど。
「ま、アイアイが嫌なら別にいいんだよ?でも、欲しいモノをアイアイから貰ったらきっと後輩ちゃんすんご〜〜〜く喜ぶと思うなぁ。あの笑顔超可愛いよねぇ…」
ハルカの笑顔が可愛いなんて、ボクが一番知っているよ。知り合ってからずっと隣で見てきたんだから。
でもこのままこうしてパソコンで検索していても時間がたつだけで、ハルカが本当に欲しいものなんてわかるわけがない。
ここはレイジにリサーチを頼むべき?でもそうしたらレイジを兄呼ばわりして甘えなきゃいけないし………ああ、もう悩んでも仕方ない。
「……言っとくけど、一日だけだからね」
「お?なになに?」
「レイジがちゃんとハルカの欲しいものを正確にリサーチできたら一日だけお兄ちゃんって…仕方ないから呼んであげる。できなかったら…」
「できなかったら?」
「ハルカにレイジの性癖ばらす」
「………………れ、嶺ちゃんに任せなさい!でもでもっ!ちゃんとできたら約束守ってよね!」
「…分かったよ」
レイジは放り投げたジャケットを拾い上げ、鼻歌を歌いながら足取り軽くボクの部屋から出て行った。
…さて、ボクも次の仕事に向かう時間だ。
ショウとナツキとのユニットライブだからボクなりに彼らにリサーチしてみよう。
ほんと誰かの為にこんなに考え悩んだのは初めてだよ。
でも不思議とイヤじゃなくて、少し楽しいと思うボクがいる。
ボクにとっても二人で祝うのも初めてだらけなハルカのバースデー。
どうせなら記憶に残ることをしよう。
終