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□藍と春歌の初詣
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【藍たちの大晦日の翌日】



ハルカやショウ、ナツキ、レイジ、トキヤ、オトヤと初めての年越しをしたボクはハルカと二人で朝に初詣へと行くことになった。

どうして二人なのかって?…本当はレイジ達も一緒に行きたいってうるさかったんだけど、ハルカが『大勢だとバレてしまいますから』って断ってくれたおかげで二人きりで来ることができたってわけ。


「ハルカ、手」
「え?」
「はぐれるから」


広大な神社の敷地にはたくさんの人で賑わっていた。そんな場所でボクがとろいハルカから目を離したら…後々面倒なことになることは簡単に推測できるので手を繋ぐことにした。
ま、こんな人だかりじゃまずバレないし。ついでに普段できない【恋人繋ぎ】っていうのをしてみる。

ハルカはボクのその行動に驚いたのか頬を赤く染めながらボクを見上げてくる。


「あの…っ藍くん…ここ、人がたくさん…!」
「だから?」
「誰かに見られますっ」


そういってハルカは手を離そうとするけど、ボクは繋ぐ手に少しだけ力を込めて離さないようにする。


「皆前方しか見ていないから気付かないよ…現に、変装はしているけどボクがいることに誰も気づかないでしょ」
「そうですけど…」
「それとも何?ボクと手を繋ぐのがイヤだっていうの?」
「いえ!決してそのようなことは…っ」
「なら問題ないよね」


…にしてもボク初詣って初めてで興味本位で来てみたけど…賽銭箱までたいした距離はないのにさっきから全然進まない。なるほど…うん、来年以降来ることがあったら三が日以降にしよう。


「藍くん、寒いですし参拝までもう少しかかりそうですから甘酒飲みません?あそこで配られているので」


ハルカが見つめる先をボクも見てみるとそこから微かに甘酒独特の匂いが漂ってくる。
確かこれは未成年が飲んでも問題はなかった、はず。


「…そうしようか」


人の流れから少しだけはずれて甘酒を受け取ったハルカはふぅふぅと少し冷ましてボクに差し出してきた。


「はい、どうぞ」
「……君が飲むためにもらってきたんだから君が飲みなよ」
「私のはまた貰えばいいですから!飲むと温まりますし、ね?」


全く…君はどこまでお人好しなのさ…まぁそんな君からボクは恋を知ったんだけどね。


「じゃあ一口だけ…」


甘酒を受け取ったボクは少しだけ飲み、ハルカに返すと彼女も甘酒を口にした。


「温まりますね…藍くん」
「そう…」
「もう一杯…飲んでもいいですか?藍くん」
「いいよ」


ボクがそう返事をするとハルカは嬉しそうに小走りで甘酒を取りに行った。


「その甘酒、少し貸して」
「はい」


ハルカから甘酒を受け取ると先ほど彼女がしてくれたようにふぅふぅと少しだけ冷ましてあげた。


「どうぞ」
「わわわ、藍くん!?」
「…さっき君がしてくれたお返しだよ」
「なんだか飲むのが勿体ないれす」
「どうして?甘酒は飲むためのものでしょ」
「…藍くんがフーフーしてくれた甘酒は特別ですよ〜」
「何それ、意味が分からないよ」
「ふふ…やっぱりさっきより美味しい…っ」
「…あっそ…」


フワリとほほ笑みコクコクと甘酒を飲み干したハルカは、カラになったカップの底を切なげに見るとボクをじっと熱っぽく見上げてきた。

…何か彼女の様子がおかしい。だって普段ならボクを見つめるなんてこと恥ずかしがってしないから。


「あのぅ…もう一杯…飲みたいれす…藍くぅん」


何その猫撫で声…それに瞳は潤み、頬も紅潮している。
ボクは猛スピードで今のハルカの状況を分析した…するとすぐに結果が出た。
それは【甘酒2杯で酔った】というもので。

まぁ…原料に含有されていたり製造過程で生成されることでアルコールが含まれることがあるけど…にしても2杯って。子供でも平気な飲み物で酔う普通!?


「藍くぅん…ダメ…れすかぁ…?」


ハルカはボクの腕にしがみつくように腕を絡ませてきた。
へぇ…酔うと積極的な行動をとるんだ…新発見。


「ダメ。ここに何をしに来たか分かっているの?」
「藍くんと、初詣れすっ」
「なら甘酒はもういらないでしょ」
「イヤれす…っ!」
「…じゃぁ帰るよ」
「う〜…もっとやだぁ…」


あろうことか、ハルカはポロポロと大粒の涙をこぼし始めて…神社を行き交う人々は泣いているハルカとボクを交互に見ている。


「ちょ…何も泣くことないでしょ…」
「うぅ…」
「はぁ………分かった。一杯だけだからね」
「ほんとに…いいの?」
「一杯って約束できるならね」
「できます!藍くん…大好き…っ」


ボクの着ているコートの袖口でハルカの目元を拭ってやるとボクの腕から離れ、少しふらつきながらも甘酒を貰ってきた。


「えへへ…あったか〜い…」
「まったく…いつもそれくらいボクに甘えてくれたらいいんだけど」
「…ふぇ?何か言いましたぁ?」
「何でもない。それより、それ飲んだらさっさとお祈りしておみくじして帰ろう。君が酔っぱらってくれている間にね」
「どうしてですかぁ…?」
「二人きりの時に甘えてくれるなんてレアなケースはそうそうないからね」


甘酒を飲んでいるハルカの腰を抱き寄せおでこにキスをしてやると、ハルカは嬉しそうにはにかみながら少し背伸びしてボクの頬にキスをし返した。


…本当、いつもこうだとボクももっと色々やりやすいんだけどね。




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