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□冬の花
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「わぁ、寒いと思ったら雪が降っていますよ、藍くん!」
「ふぅん…これが雪」


今日はラボでの定期メンテナンスの日。
普段ならボク一人で行くけど、今日はハルカがどうしても一緒に行きたいと言ってきた。
メンテナンスしてる姿を見せたくなんてなかったけど、ハルカが上目づかいでお願いしてくるから…仕方なくこうしてラボに向かっている。
そんなハルカは今楽しげに新雪をすくってはしゃいでいて…何がそんなに楽しいの?


「ひらひら舞う雪って、まるで桜の花が散っているみたいで綺麗ですよね」


東京で雪なんてほとんど降らないからテレビ越しには見たことあっても実際に見たのは今日が初めて。ふと触れてみたい、という興味がわいたボクは掌を広げてみた。
すると掌に舞い落ちた白い雪は音もなく消えていく。

なるほど、冷たい。でも、


「…こんなにすぐ溶けて消えるなら、桜とは似ても似つかないよ」
「でも桜も儚…くしゅんっ」


雪に触れてはしゃいでいたからかハルカが小さなくしゃみをした。


「ほら、寒いんだから…こっち来て」


数十メートル範囲内に人がいないことを確認したボクはハルカの腕を引き腰に腕を回す。


「きゃっ」
「…これで少しは暖かいでしょ」
「で、でも誰かに見られたら…」
「ボクがそんなヘマすると思う?」
「思いません」


ハルカを抱き寄せると触れ合う部分から君の鼓動がボクにも伝わってくる。
その時なぜか胸のあたりが締め付けられる感覚を覚えた。これは何?君の感情?

…もし今ボクにヒトと同じ心があったなら君と同じ気持ちでいられたのかな?
この伝わる鼓動の意味を知れたの?ねぇ神様…、どうかボクにも心を下さい。

神様なんて、曖昧な存在にすらそんなこと願ってしまうほどボクは君を…


「藍くん?」
「え…何?」
「どうかしたんですか?ぼーっとして」
「別に何でもないよ」
「もしや、どこか調子が悪かったりするんですか?!」


そういうとハルカは巻いていた自身のマフラーを急いでボクに巻きつける。そうしたら君が寒いじゃない。ホント…バカなんだから。


「藍くんはアイドルなんですから、ちゃんと暖かくして風邪ひかないようにしないと!」


ボクはロボだって通算9985回は言ってきたのに、まるでボクを人間のように心配する君。

…君のその優しさは出会ったころと何も変わらないね。変わったのはボクの方、か。

あの頃のボクは君との距離が遠すぎてキツイことや酷いことを言って君を傷つけた日もあった。
それなのに何でもないかのようにハルカはボクに優しく接してくる。その優しさがボクには眩しい。


本当は今すぐ抱きしめたい衝動に駆られたけれど、ここは外だから家に着くまでのお預けだね。
帰ったら嫌と言っても放してなんてあげないんだから。



「じゃぁ私はコッチに…お邪魔します」
「…?」


マフラーをボクに巻き終えたハルカはボクのコートのポケットに手を入れてきた。


「藍くんのぽっけ、暖かいです」


ふわりと柔らかくほほ笑む君。
あぁ、ボクに愛を教えてくれたのがハルカで本当に良かった。

ボクは多分君より早く停止してしまうだろう。そんな日が来ても君は笑顔で見送ってよね。
バカでとろくて、音楽の事となると周りが見えなくなるハルカに涙が似合う訳がないでしょ。
それにさ君がボクを忘れない限り、君の中でボクは生き続けていけるんだし。


………なんてしんみり考えてしまったのはきっとこの儚い雪のせい。


「…ボクのポケットに手を入れていい許可なんてしてないんだけど」
「えぇ〜」
「まぁ…マフラー貸してくれたお礼に今日だけ特別に許可してあげる」
「はいっ」
「さ、早く行こう。博士が待っているよ」


ねぇ、ハルカ。ボクは君と過ごす今日という時間、絶対に忘れないから。

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