【先輩orプリンスの話】

□彼シャツ-翔の場合-【来栖翔】
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ある快晴の日、俺、来栖翔は次の収録まで時間があったのでシャイニング事務所の空き会議室の窓に座り日向ぼっこをしていた。
この時期は暑くもなく寒くないちょうどいい季節だから気持ちがいいぜ。
でもちょうど良すぎてついウトウトしちまいそうになるなー。

そんなまったりしたひと時を過ごしていると、不意に会議室のドアが開いた。
入ってきたのは俺様の専属作曲家兼、愛してやまない彼女の七海春歌だった。

彼女は俺の姿を見つけ少しだけ驚いたものの、すぐさま満面の笑みを浮かべて俺様のもとにやってきて、何の躊躇もなく窓際まで椅子を引いて腰を下ろした。
その時に春歌が黄色い何かを大事そうに抱きしめていたことに気付いて。


「よ!お疲れ…ってお前何持ってんだ?」


抱きしめている黄色い何かに指差すと、彼女は俺の指の先を目で追いこう言った。


「これですか?美風先輩がデザインしたプロデュースTシャツです」


そう言いながら春歌は藍がデザインしたというTシャツを広げて見せてきた。
確かにこれは藍がデザインしたものに間違いないけど…


「…それをどうして春歌が?」
「先輩から頂きました」
「…まさかとは思うけどさ」
「えぇと…【君がボクのシャツを着ている所が見てみたい。ショウがいないところで今度着て見せてよ】って…」
「やっぱり…」


藍は色々あって今までの俺達が知る藍とは少し違う…博士曰く【ニュー藍】だそうだ。
何が違うかというと、一番わかりやすいのは感情表現、だな。特に【スキ】と言う感情表現はかなりストレートだ。
何度春歌は俺の彼女だ!って言っても【ボクだって好きなんだから独り占めしないでよね】って真顔で返してきやがるから厄介でさ…まぁ、今までそういう表現をしてこなかったからいい傾向なのかもしんねぇけど。

だからと言ってTシャツをそんな理由で贈るのはいただけない!しかもなんだ、俺様のいないところでって!藍のヤツ、いつの間に下心を覚えたんだよ!


「あの、翔…くん?」


無意識のうちに藍のTシャツを睨みつけていたらしい俺は、春歌の呼びかけでハッと我に返って。


「え、あ、あぁ悪りぃ…つか、俺様のいないところで藍のシャツなんて着るなよ」
「どうしてですか?」


だああああ!!!上目遣いで小首を傾げるなぁあああああ!めちゃくちゃ可愛いだろ!
ここ、会議室だけど抱きしめたくなるっつーの!


「ど、どうしてって…どうしてもだ!」


俺を見つめる春歌が可愛すぎて直視できずに、プイっと視線をそらしてしまった。
だって、彼氏なら普通他の男のシャツ何て着てほしくないだろ…


「ですが、折角頂いたので一度は袖を通さないと…」


俺様が藍のシャツを着ることを嫌がる理由を理解してない様子から察すると、


「なぁ、春歌?」
「何ですか?翔くん」
「か、かかか彼シャツって知ってるか?」


くそぅ…男の俺が彼シャツとか言うの恥ずかしすぎるぜ…!


「カカカカレシャツ…ですか?ごめんなさい、分からないです」
「ち、違う…その…【彼シャツ】だ」


2回!男気溢れる俺様が2回も彼シャツって言っちまった!


「何ですか?それ」


あぁやっぱり知らなかったのか。聞いといてよかったぜ…しかし、彼シャツとはってーのを俺が説明しなきゃならなくなっちまった訳で。


「……男気だ来栖翔。男気全開で説明するんだ…!」
「…翔、くん…?」
「彼シャツってのは、彼女が彼氏のシャツを着ること!女の人が男もんのシャツ着たらブカブカするだろ?男はそれ見て癒されるんだよ!分かったか!」


一気にまくしたてるように言うと、春歌は無言でコクコクと頷いていて。


「翔くん…美風先輩は彼氏ではないので彼シャツとは違うと思います」
「だから、それを着せてそういう雰囲気に浸りたいんじゃね―の?悔しいけど藍は俺よりデカいからサイズもいい具合にブカブカだろうしな」
「えぇと…翔くんは、私が美風先輩のTシャツを着るのは嫌なんですよね?」
「嫌っつーか…俺がいないところでされるのはコソコソされてるみたいでいい気分じゃないよな」
「分かりました。翔くんがいないところでは着ません。そのかわり…」
「そのかわり?」
「翔くんがいるところで美風先輩のTシャツと翔くんのTシャツを着れば、美風先輩のお願いを聞けて、翔くんも嫌な思いしませんよね?」
「…お前…」
「それに私は翔くんの…か、彼女さんなので翔くんの【彼シャツ】やってみたいですし…」


そういう春歌は頬を真っ赤に染めて下を向いてしまった。
クソっ!どこまで可愛すぎるんだ!俺様の彼女は!


「春歌…!」
「きゃっ、しょ、翔くん…っ」
「お前、可愛すぎ…っ」


無意識のうちに俺は彼女を抱きしめていた。
俺よりも一回り小さい春歌は急な抱擁に戸惑いつつもゆっくりと俺の背中に腕を回してきた。


「ふふ…」
「…何笑ってんだよ」
「翔くん、お日様の匂いがします。あったかくて気持ちいいです」
「まぁ、ずっと窓際にいたからな」
「今度、翔くんのお部屋で二人お揃いのTシャツきて日向ぼっこしませんか?」
「お、いいな、それ!本当は公園とかで春歌に膝枕とかしてもらいたいとこだけどな」
「じゃぁ、お弁当作って持っていくので、ベランダでぷちピクニックしましょう!」
「まじで!じゃぁ俺エビフライとからあげとーたまごやきとー…ってガキみてぇ…」


春歌が弁当作ってくれることが嬉しくてテンションあがっちまったけど、我に返ると恥ずかしいぜ。春歌、小さく震えて笑ってるし…


「翔くんの好きなものぜーんぶお弁当に詰めていきますね!」
「おう!たのしみにしてるぜ!」


お互い顔を見合わせ小さく笑うと、触れるだけのキスをして会議室を後にした。


あー!
早く次の休みにならねーかな!
うし!家帰ったらてるてる坊主久々に作るとすっか!




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