天国はどこですか?
□音楽室
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「ナア、曲理──」
曲理のほうを振り向くと、テレキャスターが無造作に立て掛けられていた。足元の不安定な感触はない。ざらざらとした、音楽室の床だ。
「コレは──楽譜か?」
数枚の紙がテレキャスターの近くに散らばっていた。なんとなくそれが気になったボクはそれをかき集めて、拾い上げた。
「……何だヨ、タイトルがないじゃないか」
譜面は埋まっているのに、そこだけが白かった。若干落胆を覚えながらも2枚目へ目を落とす。
"十九号"
「……ン?」
いきなり十九って……何を考えテンだ、作曲者は。タイトルに首を傾げながらも、その下へ視線を落とす。これも譜面は普通だ。普通に埋まってる。てっきりタイトル並に変なのだとばかり──アレンジなのか一枚目と少し似ていた。
特に感想はない。捲る。
"ハリア"
字が汚い、と思った。綴りもそれで合っているのかよくわからない。けれども──読める。またアレンジだ。捲る。
"グンキ"
ひっくり返して、キングにしてやれヨ。そして読み辛い。捲る。
"アンド"
何かふたつ付け足せヨ、意味不明だ。捲る。
最後の一枚は──とりわけ字が汚かった。タイトルに至っては、まるで──メモに走り書きしたかのような字だ。普通ならば読めるはずもなかった。けれども、読めた。読んだと同時に──ボクは全てを思い出した。河川敷で見た記憶のことを。
「ノイズ……」
6枚目の楽譜のタイトル──その記号を口にすると、どうしようもない虚無感に襲われた。ボクに名前はないという、漠然とした──それでいて、明確な絶望感。ボクは、ありもしないものを思い出そうとしていたのか。
楽譜をどうすることもできないまま、そのままずるずると座り込む。
──天国はどこですか?
その声が、言葉が──妙に耳に残っていた。