天国はどこですか?
□瓦屋根
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残念──曲理に手当てしてもらった跡は消えてしまった。まあ、今回は名前が聞けたし、その後結構話せたし、プラマイゼロってことで。
ボクは、どこかの家の屋根の上で寝そべっていた。さっき落ちたばかりなのに、また高いところだ。また落ちても──曲理は手当てしてくれるのかな。会うことができたら手当ては確実だろう──けれども、身体を起こそうとしたボクはそのまま頭を瓦の上に戻した。
泣き顔も見ることになるから、それは嫌だ。泣いてるところもかわいいに違いないけれど、悲しませるのは是非とも遠慮したいところだ。
ウン、よくないよくナイ。悲しませるのはよくないと邪念を振り払う。
また手当てしてほしいだとか欲張るんじゃない、ボク。でも思春期だからある程度は仕方ないと思ってるボクもいるっちゃいる。夜とか、その……ネ。健全な男の子なんだから仕方ないだろ、これでもいっぱしに好きな子いるんだし──
──イヤ、もうやめよう。こんナ話題は。自分で自分を諌める。
そんなどうしようもないことより、今ボクが置かれている状況を確認すべきなのは間違いない。
商店街、河川敷、駅のベンチ、渡り廊下、公園の木──ときて、今度は瓦屋根の上。どうして瞬間移動したみたいなことが起きるのか、不思議でならない。どれも特に関連性はないのに。
ボクの精神がおかしくて、断片だけが見えてるだけなのかもとか考えたけど、どうもしっくりこない。もしそうだったら曲理に怪訝な顔されてるだろうし──いや、ちょっと抜けてるところあるから気付いてないだけかも。
気付いていない可能性が一番高くて、ボクは頭を抱えたくなった。ツンデレの意味とか完全にわかってなかったし、あの子はいろいろとおかしなところがある。それも含めて全部かわいいというのも事実ではあるけれど……
夕焼けの空を鴉が飛んでいく。かあー、かあー。鴉が鳴いたら帰るんだっけ。でもボクは帰れない。家を思い出そうとしてみたけど、引っ掛かる記憶が少しもない。
「ウワー、風情だネ」
なんだかそのことがむかついて、思ってもいないことを口に出してみたら──本当にそんな風に思えてきた。