天国はどこですか?
□ベンチ
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ボクはベンチで寝ていたらしい。ずれた帽子を直すと──周りがスーツの大人や学生で溢れかえっているのが見えた。
どこかの駅のホーム──ここも知らナイところダ。ただ忘れてるだけかもしれないという可能性は、この際その辺に放り投げて──
「起きたんですね」
「!」
近くからの声に肩がびくりと震えた。ボクのした反応が反応だったからか、声の主は少し笑っている。恥ずかしくなったボクは、「アー」だとか「ンー」だとか言って誤魔化した挙げ句、ばちりと合った目をそらした。
「まさか寝てるとは思いませんでしたよ」
さっきの商店街、踏み切りの向こうにいた彼女がボクの隣に座っていた。起きたら好きな子が隣にいるだなんて、驚かずにいられるカ!ちなみに──話したことは、ない。これが初めてだ。
「……寝てるとこ、見たンダ」
「はい、ばっちり見ちゃいました」
えへへと笑う彼女の顔は夕日に照らされていて、昼間の白さが嘘のように赤い。初めて目にしたときなんか、真っ先に足を探したくらいだってのに。
かわイイなア……。そんなことを思いながら見つめていると、彼女は笑ったまま──爆弾を落とした。
「お昼休みは机に突っ伏していて、見れませんからね」
「アア、確かに──エッ」
なんデそれを。クラスが違うのに知ってルなんて……。あまりにも自然だったから、一瞬流しかけた。
心が期待に満ちていく。まさか……とそんなボクに「ほら」と突き出された携帯の画面には、ボクの恥ずかしい寝顔が──
「……盗撮ッテ、知ってル?」
真っ先に口をついて出た言葉がこれだった。チクショウ!素直になれよボク!次の言葉はキチント選んでやル──とこっそり意気込む。
「だから見せてるんです。これで盗撮にはなりません」
ンなわけあるカヨ。
笑いながラそう返そうとしたとき、マタ世界が変わりやがッタ。