天国はどこですか?
□河川敷
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ちゃぽん、と音を立てて石は水中に姿を消した。ヤッパリ、円盤状になってルやつじゃないと駄目ってコトか。ボクは揺らめく水面を少しだけ眺めて──石を投げることを止めた。紫に侵食されつつある赤に、ぼんやりとした目を向ける。
ボクはどうして──ここにいるンだろう。
少し前──あの商店街に来る前のことを思い出そうとしてみたけれど、靄がかかったように思い出せない。それどころか、何も──何一つ思い出せない。あの子の名前どころか──自分の名前すらも。
デモ、確かにボクはボクで……
今思い出せないだけだと自分に言い聞かせる。すぐニ思い出すッテ。
呑気なチャルメラがヘッドホンの音に混ざってきた。それがなんだか嫌で、コツコツとヘッドホンを爪先で小突きだす。屋台が近付いてきて我慢ができなくなったところで、音量を一気に上げた。
♪#§¢*♭♯φж……
「…………」
雑音のようなメロディーが流れて──限りなく雑音だろ、コレ。
苦笑のようなものを漏らしたところで、ボクの視界が何かに遮られた。人の気配なんてものはないし、何かが飛んできたわけでもない。
真っ暗な視界──ぷつりと壊れたビデオのように目の前で流れたのは、いつかの記憶。壊れた鏡の破片に映る、絶望した表情の幼いボク。どこからか現れた狐面。眼鏡の集団。茶髪の死んだ目。閉じた門扉に背を向けて立つボク──向こうから赤い車が……
「誰……ダヨ、こいつラ……」
やっとの思いで絞り出した声は掠れていた。
ボクが思い出しタイのは、人間関係トカじゃなくテ──!
自棄になって、掴みあげた石を乱暴に川へ放る。どぽんとそこに水柱が上がって──少ししたあとに魚が浮いてきた。周りの景色が水面みたいに揺れ出す。それが収まったころ、すでにボクはいなかった。